かつての女子部の仲間たちの現在もそれぞれです。寅子を除いて、家庭を持ったのは崔香淑(ハ・ヨンス)のみ。言わずもがなですが、だからと言って残りの面々が幸せではないかと言ったら、まったくそんなことはありません。

『虎に翼』多様なパートナーシップが示す「典型を作らない」強い意志。優三に象徴される“尊重”と”応援”こそ、このドラマの精神だ【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー19•20週】_img0
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よね(土居志央梨)は自分を曲げることも変えることもせず、司法試験に合格。司法修習を終え、ついに弁護士として、轟(戸塚純貴)と共同で法律事務所を構えました。よねと轟は、性別や恋愛感情に回収されることのない、真の同志。口下手で素直になれないよねと、そんな彼女の不器用さを理解し、何かとフォローをしてくれる轟の関係性に憧れる人は僕だけではないはずです。

涼子(桜井ユキ)と玉(羽瀬川なぎ)はお嬢様とお付きという身分の差を超え、真の親友に。新潟で喫茶「ライトハウス」を営む二人は、心の支えであり、仕事面でも欠かせないパートナー。ここに、寅子の依頼で出入りするようになった稲(田中真弓)も加え、年齢や生まれにとらわれないシスターフッドを育みました。三人が休憩時間に思い思いに本を読んだり繕い物をして過ごす光景は、厳しい時代を乗り越えて三人が手に入れた自由の象徴であり、本作の中でもとりわけ美しいシーンの一つとして心に残りました。


家族の「典型」を自ら放棄した梅子は、長年通っていた「甘味処 竹もと」で働くように。「竹もと」の味を受け継ぐべく、桂場(松山ケンイチ)のお墨付きを得ようと特訓中です。大庭の家で過ごした時代のほうが経済的には豊かだったかもしれません。ですが、今の梅子のほうがずっとイキイキとした顔をしていることは、もはや言うまでもありません。

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なんなら涼子と梅子はそれぞれ家族の事情で法曹への道を閉ざされました。あのときは、どうにか彼女たちが夢に再挑戦できればと願っていましたが、今の二人を見ていたら、そんなふうに思うのも大きなお世話というもの。彼女たちは無力な被害者でも犠牲者でもありません。ちゃんと自分で新しい道を見つけた。家族の形がそれぞれであるように、幸せの形もそれぞれであり、ひたむきに生きていれば光ある場所へ辿り着けるのだと教えてくれるようです。まるで闇夜の灯台のように。

 


優三に象徴される『虎に翼』の精神

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『虎に翼』の描く多様性は、女子部だけではありません。本科の同級生として机を並べた轟も、第20週のラストで恋人の遠藤(和田正人)の存在が明らかに。花岡(岩田剛典)のときは自分の恋心を自覚しきれていなかった轟ですが、時を経て、偶然二人が寄り添って眠っているのを目撃した寅子の前で、堂々と「今、俺がお付き合いしているお方だ」と宣言しました。


高瀬(望月歩)と小野(堺小春)の友情結婚もそうですし、妻子を失った太郎(高橋克実)と、そんな兄を気にかけ続けている次郎(田口浩正)という兄弟の強い結びつきも一つのパートナーシップと言っていいのではないでしょうか。


『虎に翼』がこれだけ多様なパートナーシップのあり方を描いているのは、一つの価値観を正解にしないという強い意志があるからです。エンタメの影響というのは僕たちが思っているよりも絶大で、物語で描かれる「典型」を簡単に当たり前のものと見なしてしまう。『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』、あるいは『クレヨンしんちゃん』といった幼少の頃に観たアニメ作品の家族の形を、原風景として刷り込んでいる人も少なくないでしょう。逆に言うと、物語の中で描かれていない存在を、「いないもの」として簡単に透明化してしまう。