世界最高峰の老年医学科で働く山田悠史医師が、脳の老化と認知症の進行を遅らせるために「本当に必要なこと」「まったく必要でないこと」を伝えます。
山田 悠史
米国内科・老年医学専門医。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。新型コロナ専門病棟等を経て、現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ「ライブニュースα」レギュラーコメンテーター、「NewsPicks」公式コメンテーター(プロピッカー)。カンボジアではNPO法人APSARA総合診療医学会の常務理事として活動。著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。
X:@YujiY0402
Podcast:山田悠史「医者のいらないラジオ」
Spotify Apple Podcasts Anchor Voicy
タバコが認知症リスクになることはほぼ確実
「私の祖父はヘビースモーカーだったけど、認知症にはならなかった」
そんな声を聞いたことはないでしょうか? そして、そんな声を身近に聞いてしまうと、「それならタバコをこのまま吸っていても問題はないだろう」「父の喫煙を止めようと思っていたけれど、まあいいか」と考えても不思議ではありません。
人間どうしても自分にとって都合のいい情報ばかりが頭に残るものです。そして確かに、長年喫煙していても認知症にならないという人はいます。それは紛れもない事実です。
しかし、一般に「リスク」の話は、あくまで「確率のお話である」ということを忘れてはいけません。タバコが認知症のリスクになるとして、別にタバコを吸った人は黒、タバコを吸っていない人は白ではないのです。タバコを吸っていても、吸っていなくても、皆グレーというのが真実です。ただ、そのグレーがより黒に近いグレーになるのか、白に近いグレーになるのかを「リスク」が変化させます。そんな感覚を持っていないと、「リスク」は上手に理解できないでしょう。
さて、それでは本当にタバコが認知症のリスクとなるのでしょうか。これについては、もうだいたい皆さんが想像される通り、ほとんど確実と言えそうです。
例えば、約95万人分のデータを扱った大規模な研究では、喫煙者は非喫煙者と比較して、認知症リスクが約30%増加することが報告されています(参考文献1)。
30代から吸い始めた人は要注意
中でも特に注目すべきは、同じ吸うでも「どの年齢で吸っているか」が大切そうだということです。最近の研究によれば、65歳以前の喫煙は65歳以降での喫煙よりも強力な認知症リスクとなる可能性が示唆されています。
フラミンガム心臓研究と呼ばれる大規模な研究では、30代以降の人たちで見ると、30代に喫煙を開始した人が最も高い認知症リスクを示しました(参考文献2)。これは、長期間の喫煙が脳に累積的なダメージを与える可能性を示唆しています。実は、こうした知見は最近になってわかってきたことで、当初は高齢期での喫煙のみがリスクとなると言われてきました。
Comment