おそらくそれは、かつては若い喫煙者は認知症になる以前に心臓の病気やがんで亡くなっていたからだと考えられます。現在ではそうした病気の予防や治療が改善され、認知症になるまで長生きができるようになったことの裏返しなのでしょう。
このため、初めて若い頃の喫煙も認知症リスクにつながるとわかったのです。逆に言えば、がんや心臓の病気はしっかり予防したり治療したりできるようになったのに、認知症はそうはなってはいないとも言えます。
こうした関連は繰り返し示されており、イギリスの約50万人を対象とした研究でも、50歳未満の喫煙者は、非喫煙者と比べると認知症リスクが1.7倍高いことが報告されています(参考文献3)。この研究では、男女による性差も検証されていますが、性別では特に違いは見られませんでした。こうした喫煙による影響には、どうやら性別は関係ないようです。
タバコが脳にダメージを与える理由
では、なぜ喫煙が認知症リスクを高めるのでしょうか? 実際のところ、喫煙は様々な過程を通じて脳にダメージを与える可能性があります。
喫煙が認知症リスクを増やすのには主に、体内での酸化ストレスの増加と、それに伴う脳へのダメージ、そして血管への悪影響が挙げられます(参考文献4)。
まず、喫煙によって体内の酸化物質と呼ばれる有害な物質がたまっていきます。すると、この酸化物質が脳の中でアミロイドβなどの異常なタンパク質を作り出します。こうした異常なタンパク質は、脳へのダメージにつながったり、脳内で必要な情報を探し出すのを妨げたりして、最終的に認知症のリスクが高まることになると考えられています。まるできれいに整頓された自宅に、ゴミや不要な物が積み重なって散らかっていき、必要なものが探しにくくなるように。
さらに、喫煙は血管にも悪影響を与えます。喫煙は、血管の動脈硬化という変化を起こすことが知られていますが、これは血管を水道管に例えると、水道管のパイプの中にサビが起こり、詰まりやすくなるようなものです。このため、血液の流れが悪くなる傾向となり、それが深刻になると、水道管を水が流れなくなるのと同様、十分な血液が行き渡らなくなります。特に、デリケートな脳には十分な血液と酸素が必要ですが、この供給が不十分になると、脳の一部がダメージを受け、認知症のリスクが高まるのです。
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