「キャビンアテンダントになるしかない」


そこからが私の、というか若さの恐ろしくもパワフルなところだけど、私もキャビンアテンダントになるしかない! と素直に思い定めた。今思うと、いろいろツッコミたいけれど。

勇人がパイロットなら、私がキャビンアテンダント。

実を言うと、昔からドラマを見て密かに憧れていた。動画配信サービスで、キャビンアテンダントを検索してかたっぱしから見るほどには。

でも、背は少しばかり高いけれど英語も話せない田舎者の私にキャビンアテンダントになれるという発想は全くなかった。大学も就職によさそうだからと商学部を選んでいたくらい。

だけど、勇人が、さらに遠い夢に向かって手を伸ばしている。幸いまだ大学1年生だ。きっと本気で努力すればなれるはず! 

それに、彼がパイロットになったらものすごくモテるようになるに違いない。釣り合うようにならなければ未来はない気がした。

そして勇人はその言葉通り、翌年航空大学校に合格。宮崎の寮に入って訓練に入る。

彼がパイロットを目指すと言い出した!?結婚を夢見ていた彼女が「落ちてほしい」と願った切ない理由_img0
 

有言実行の彼に惚れ直したのはいいけれど、大学生の私に宮崎はあまりに遠かった。学割を使って飛行機で行ったり、夜行バスを乗り継いでみたり。バイトも一生懸命して、もちろんキャビンアテンダントになるために英語もコツコツ頑張っていた。

訓練が佳境に入ると、彼はイライラしてナーバスになることが増える。そんなときは集中できるように連絡を控えた。最初は月に1回は会おうと言っていたけれど、現実は2~3カ月に1回が精一杯。それでもその数日のためにアルバイトも勉強も頑張れた。

 

2年間の航空大学校課程も終盤になり、就職活動の時が最大の山場。私も就職試験があったから、お互いに集中して頑張ろうと約束した。

彼が大手航空会社に内定したことはある意味頑張った成果で予定通り。でも私まで同じ会社のキャビンアテンダントに内定できたことは、長い間遠距離恋愛頑張ったから神様のご褒美だと思った。奇跡としか言いようがない。

……後から考えれば極上の皮肉だったのだけれど。

私たちは私たちが住んでいた小さな町から出た初めてのパイロットとキャビンアテンダントになった。

勇人がベッドのなかで結婚しようと言ってくれたのは、航空大学校の卒業旅行の夜だった。

人生で一番幸福な夜。

……あの奇跡はもう、別れたとはいえこの先も超えられないだろうと思っている。