「彼女ができたんだ、空港研修で」
数秒間、ベッドのなかで固まって、何が現実なのか混乱した頭を必死に整理する。
新卒のとき、奇跡的に勇人と同じ会社に内定。
私の訓練が始まって早々に、先にパイロット訓練生として先に入社していた勇人から「空港研修でグランドスタッフの彼女ができた」と切り出された。
直後から眩暈と吐き気で頻繁に倒れてしまう症状が出たこと。入院するほど悪化して、キャビンアテンダントの訓練が続けられず、会社を辞めたこと。そしてそのことをずっと後悔してきた。憧れを忘れたふりをして事務職に就いて……31歳で航空会社に再挑戦。
――大丈夫。私、ひとりでちゃんと立ってる、今。
10年近く、後悔と自己嫌悪にまみれていた。
大好きだったひとに、あんなに簡単に振られた。そして動機は不純だったけれど、いつの間にか本気で志望していたキャビンアテンダントという仕事をすぐに辞めてしまった。
最悪だ。私は勇人に裏切られたかもしれないけれど、私もまた、会社や同僚を裏切ったのだ。病気を言い訳にしたけれど、実際は同じ会社にいてパイロットの制服を着てほかの女の子と歩く勇人を見たら耐えられないと思った。なんて子どもなんだろう、イロコイと仕事を混同して。
でも、そのシーンを思い浮かべると心臓がぎゅっとなってどうすることもできなかった。恋愛経験がなさ過ぎるうえに、世間知らずな私は、そうやって仕事さえ失った。そんな自分が嫌で、20代は自分で台無しにしたようなもの。
深く息を吐く。
……昨日の美里先輩のスマホに写っていたのは、勇人だった。
同じ航空業界で働いていたら、いつかこんな日はくるとは思っていた。違う航空会社でも、意外に知り合いだらけなのがこの業界だ。
――大丈夫。もうあの頃みたいにバカな失敗はしない。
私は言い聞かせながら、まだ明けない夜にいらだち、ぎゅっと目を閉じた。
ステイの夜、再会
「芽依!? もしかして、芽依じゃない?」
新千歳空港で、背後から声をかけられたとき、振り向く前に一発でそれが誰の声だか、私にはわかった。
とっさに、リップをいつ直したか、考えてしまう。今夜は千歳ステイで、朝から4本の国内線を飛んでいた。
「……ひ、さしぶり」
それだけ言うのが精一杯。私はゆっくりと振り返った。
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