「!? その制服……え? なに、転職したの? ていうかCAになったの?」

勇人は驚愕、という表情でこちらに大股でやってきた。パイロットの制服姿。実際に見ると、それは勇人にぴったりと似合っている。カッコよすぎた。

付き合っていた頃、航空大学校の仲間とホームパーティがあり、勇人は私を連れて行ってくれたことがある。夜遅くに合流した先輩がフライト帰りで、外資系エアラインのパイロットの制服を着てきた。

 

気のいい先輩で、後輩たちにジャケットを着せてくれて……勇人は文句なく素敵だった。私はどきどきしながら一緒に写真を撮った。その1枚が、ずっと削除できずにまだスマホにある。

きっと近い将来、ふたりは本物の制服を着て並んで歩くと信じて疑わなかったあの頃。

「そうなの、最近、転職したの。勇人は……元気そう」

まともに顔が見られなくて、制服に感心するふりをして視線を落とした。袖にはゴールドのラインが入っている。3本は副操縦士。経験を積んで、もうすぐキャプテンの証、4本目が入るんだろうか。

「今夜は聞かせてよ」元カレパイロットの危険な囁き…10年かけて踏ん張ってきた彼女の堤防が決壊するとき_img0
 

「すごいじゃん、30すぎて合格するなんて、マジ? CAの制服似合ってる。え、今日ステイ? ホテルどこ? あ、たしかそっちの会社、ロイヤルホテルか。夜、メシでもどう?」

どうしてほかの会社のキャビンアテンダントのステイホテルなんて知ってるんだろう。そしてなんて屈託なく、流れるように誘うんだろう。私は毒気を抜かれて、気がついたらうん、とうなずいていた。