構造主義で知られるフランスの哲学者・文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは、未開社会における女性の位置付けについて興味深い考察を行っています。レヴィ=ストロースによると、多くの未開社会において、「平行いとこ婚」、例えば父方のおじの子供との婚姻はタブー視されているにもかかわらず、「交差いとこ婚」、例えば父方のおばの子供との婚姻は認められるケースが多いそうです。

生物学的に両者は同じなはずですが、なぜこうした違いがあるのかというと、未開社会では女性が交換可能な商品(あるいは子供を産む道具)と位置付けられており、姓が同一のいとこと結婚すると、他の一族に提供できる商品を自己消費してしまうため、禁止されているのです。

「地方へ“移住婚”の女性に60万円」が大炎上。ひどすぎる支援策の背景にある、日本人の“前近代的”価値観_img0
写真:Shutterstock

社会の近代化が進むにつれてこうした発想は排除され、婚姻はすべて個人の自由意志で行われることが大前提となりました。日本も明治以降、前近代的価値観を一掃したはずでしたが、いまだに女性を道具や商品と考える人が一定数存在しており、今回のような意見が表面化してくることになります。
 

 


前近代的な思考の厄介なところは、本人にその意識が全くないことです。

社会学的に見ると、前近代的社会というのは、自らの自由意志で形成するものではなく、あくまで所与のものですから、前近代的社会の構成員には、自ら社会を作る、あるいはそのルールを自ら決めるという概念がありません。

今回のような施策を考える人は、おそらくですが、過疎という問題を解決するため良かれと思ってやっている可能性が高く、批判されても、本当のところ何が悪いのか分かっていないでしょう。だからといって、こうした人たちから、男性にお金を払って過疎地で結婚してもらうといったアイデアが出てくることはほとんどありません。

近代的価値観というのは、一朝一夕に育まれるものではなく、社会全体で粘り強く啓蒙していかなければ獲得できないことは歴史が証明しています。

日本の現状を変えるには、近代的価値観について、粘り強く啓蒙や説明を繰り返していくよりほかありません。

そうしているうちにも過疎が進む地域では衰退が進んでいきますから、心苦しい話ではあります。しかしながら、問題を根本的に解決しないまま表面的なプランだけを立案していては、同じ失敗の繰り返しになります。私たちは問題の根深さについてもっと認識する必要があるでしょう。
 

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前回記事「【夏休みの宿題廃止】教員の負荷軽減?子どもの自主性?「減らす流れ」の前に考えるべきこと」はこちら>>

 
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