平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 


第87話 家庭教師は見た【前編】

「塾が終わったあと、21時からうちに来て」高級タワマンで暮らす美貌の母親。笑顔で口にする、衝撃の依頼とは?_img0
 

「先生、息子の指導を引き受けてくださって嬉しいです。2年前に礼美さんのところのお兄ちゃんが偏差値45から綺羅星中学に合格したって聞いたときから、絶対うちの斗真もお願いしたいと思ってたんですよ」

住居にしては信じられないほど高層の大きい窓から、西日が差し込むリビング。今日の「依頼人」は日焼けを気にしているのか、極上の愛想笑いのあと少し眉をひそめてカーテンをひきに行った。

42の俺と、さして歳は変わらないだろうが、ともかく小学校6年生の母親には見えない。小柄で、驚くほど体の線がでたニットのワンピースを着ている。くりくりの目がキレイに化粧で彩られ、上品なアクセサリーを身に着け、ヒールのある刺繍のスリッパをはいていた。自宅のリビングでそれほど盛らなきゃならないなんて、なんだか窮屈そうな生活だ。

「先生? それでいつから来ていただけるんでしょう?」

ぼんやりとそんなことを考えていると、うきうきと彼女がテーブルに戻ってきた。

「……申し訳ございません、まだお引き受けできると決まったわけではないのですが、いくつか質問をさせてください」