フリーアナウンサーの住吉美紀さんが50代の入り口に立って始めた、「暮らしと人生の棚おろし」を綴ります。

50代、自分の「好き」を棚おろし。人生後半もずっと好きでいると決めているもの【フリーアナウンサー住吉美紀】_img0
 

「木」が好きである。生きて立っている木にも、素材としての木にも心惹かれる。山や公園など樹木が大きくて豊かな場所が好きだし、家の中も家具は木製ばかり。しかも、木の手触りや香りが残っているものが好き。

普通のことだと思っていた。人間みな、木が好きだろうと。しかし、「アナタ、本当に木が好きよねぇ」と複数の友人に、しかも度々言われることに気づいて以来、そうか、私は人から見て溢れ出るものがあるほど、平均以上に木が好きな人なのだ、と自覚するようになった。
 
確かに、自分の行動を振り返ると、偏愛に近いかもしれない。街中で素敵な街路樹があるとしばらく立ち止まって、うっとりと眺めてしまう。スマホのアルバムは、様々な時と場所でときめいた木の写真でいっぱいだ。

山に行けば、素敵な樹木を目で探してしまう。好みの木に出会うと、幹を撫で、鼻を近づけて木肌の匂いを嗅ぎ、「お邪魔しています」「アナタかっこいいね~」などと話しかけてしまう。ベランダでは植物を数十鉢育てているが、花物よりも、幹と葉だけの観葉植物や盆栽が断然好きだ。
 

 


どうしてこんなに木が好きになったのだろう。最近、そうだった、と思い出す機会があった。
ラジオの取材で、ある木材会社が運営するカフェに伺った。取材を申し込んだ理由は、その会社の起源が「北米材」にあるとウェブサイトに書いてあったからだ。
商社マンだった亡き父の専門分野も「北米材」の貿易だった。父の仕事が故に、北米でも温帯雨林に恵まれ、木材産業が盛んな西海岸のシアトルやバンクーバーに家族で暮らし、そこが私の第二の故郷になった。そんな父と近い世界で仕事をしているのかなと興味が湧いた。

50代、自分の「好き」を棚おろし。人生後半もずっと好きでいると決めているもの【フリーアナウンサー住吉美紀】_img1
バンクーバーの木と一緒に、木のポーズ

取材には、まだ20代の4代目が対応してくださった。木場で創業して99年の、北米材の輸入事業を柱としてきた木材総合商社だった。しかも4代目も、お父さまである3代目も、バンクーバーで修行をしていた時期があるという。

うれしくなり、実は私の父も、と話すと、
「知ってます。父が、住吉さんのお父さんと、当時バンクーバーで一緒に食事をしたりしていたそうです。祖父も、お父さんと仕事をしていたとか。住吉さんから取材の話があってすぐに父が気付きました」

思わず「えー!」と叫んでしまった。まさかご家族が直接の知り合いとは。26年前に亡くなった父を知っている人の家族に偶然会うなどということは、最早ほとんどないのに。世の中なんと狭いことか。

さらに取材の中で、「材木の検品」とか「2X4(ツーバイフォー)にカットする」とか、かつて父が日常的に口にしていた専門用語が次々に出てきて、私は懐かしくて興奮してしまった。私自身が木材の仕事をしているわけじゃないのに、ここまでテンションが上がる自分に驚いた。それは、父と暮らした子供時代の環境と、父のプロとしてのこだわりの気持ちに、私が知らずうちに強い影響を受けて育った証拠だった。