それがまず一段階ドンと変わったのが、30代半ば。キャスターを務めた『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、食の世界のプロフェッショナルと出会ってからだ。木村拓哉さん主演のドラマ『グランメゾン東京』の料理監修でも最近話題になった、「カンテサンス」岸田周三シェフ。収録では、岸田さんのシグニチュアでもある、塩とオリーブオイルが主役の一皿「山羊乳のババロア」と、豚の血を使ったフランス料理の定番「ブーダン ノワール」を試食させていただいた。今まで体験したことのないほどの、驚愕の美味しさだった。舌の上で、生まれて初めての食感とめくるめく味わいが広がる。岸田さんのマニアックなほどの研究とこだわりを感じる。これはただ”お腹を満たすだけの食べ物”ではない、食は一流のエンタテインメントになるのだと、自分の中の価値観が180度変わった。

野菜は雑誌の上で切る、オーブンの中には本…「食へのこだわりなし」の自分をガラリと変えた、驚愕と感動の美味体験【住吉美紀】_img0
岸田周三シェフとはその後もずっとご縁が続いている。一昨年、Spotifyのポッドキャスト『その後のプロフェッショナル 仕事の流儀』で再びロングインタビューをした時の写真。

また「京都吉兆」の徳岡邦夫さんの回では、京都の厨房に伺い、羽釜で炊き立ての白飯を試食させていただいた。口に入れて咀嚼するうち、私は言葉にできないほど心が動き、泣いてしまった。本当に初めての味わいだったのだ。甘く香ばしい香りの幸せなこと。水分が多く瑞々しいのに、ご飯の一粒一粒がプリプリと際立っている。ただの白飯がこんなにも美味しいことを知った瞬間だった。

この頃から、食に対する興味が変わった。美味しくいただくことが如何に、舌もお腹も心も満たしてくれるかを実感するようになった。

 

二段階目の変化はアラフォー。フリーランスになり、時間の使い方に少し融通が利くようになって、「料理がまったくできない」という問題に着手したいと考えた。健康的に暮らしたいという思いから、ヨガの講師資格をストイックに取得したりしている割に、自分の口に運ぶものについてあまりにも無力であることが悩みだった。卵焼きやパスタくらいはできるけれど、手の込んだものは無理。オーブンは本の収納庫と化し、フルーツや野菜は雑誌の上で切っていた。

ただ、習うなら「○種類のおかず教えます」というような生易しいところは性に合わない。料理の基本から教わり、応用ができるような基礎力を付けたかった。調べた結果、洋食ではちょうど良いレベルの教室がなく、見つけたのが赤坂の「柳原料理教室」だった。しかし、いきなり日本料理か……ついていけるのか、不安だった。