ここで、これまでの楽器との格闘と一番違って、一番大きかったことがある。ネット上に、10年前にはなかった新しいツールが登場していたことだ。私が見つけたのは「Chordify」というコード練習アプリ。YouTubeにアップロードされた曲を再生すると、曲のタイミングに合わせて、コード譜が右から左へ流れるように表示されていく。それを押さえながらウクレレを鳴らせば、すぐに曲が演奏できちゃっているような楽しさが味わえる。

しかも、教材に好きな曲がない、という問題もない。流行の最新曲からマニアックな曲まで、YouTubeにあればできる。今までは楽器の練習イコール「鍛錬、苦痛」だったのが、Chordifyのおかげで「楽しみ、ストレス解消」に変わった。気づくと3〜4時間弾いていて、指がヒリヒリしていたことも。「あともう一曲だけ!」と止まらなくなる日も。ひとりで練習する時間が癒しのひとときに変わり、いつの間にかある程度、音楽を奏でられるようになっていた。

練習を始めて半年ほど経った頃、師匠が再びラジオのゲストでいらっしゃることに。師匠に練習成果を報告するため、スタッフに相談し、勇気を出してラジオで生演奏をすることになった。ウクレレだけでメロディを表現できるほど弾けないので、弾き語りで、何十年も聴き込んでいる、バングルスの「Manic Monday」を演奏することにした。今思えば、あの恐怖のウェディング体験があるのによくやったもんだ、と思うのだが、その時の私は、ウクレレが少しでも弾けるようになった高揚感でいっぱいだった。

そして、師匠の前で演奏した。師匠からは「お正月にチューニングもできなかった人とは思えない。素晴らしい進歩、スゴイ!」とお褒めの言葉をいただいた。しかも、師匠はバングルスが大好きという偶然も。番組スタッフからも「予想以上だった、がんばったね!」と言われ、私は有頂天に。生まれて初めて、楽器演奏を褒められたのだ。すっかりうれしくなり、その後、ラジオ番組の中で流れる、夏用の“ジングル”を自ら演奏して作ったり、年末にクリスマスソングの生演奏をさせてもらったりした。

年が明け、ウクレレ歴が1年を過ぎた頃。師匠から驚きのお誘いが。「僕の20周年記念ライブに、ゲスト出演しませんか」と言う。えっ、プロのステージに出演? まだ無理じゃないかと震えながらも、師匠が大切なステージなのに声をかけてくださった、その気持ちが本当に、本当にうれしかった。これはやるしかない、と腹を括った。

【50代からの趣味・住吉美紀】自分の結婚式で弾き語り失敗!楽器が苦手な半生を経て始めた「ウクレレ」が今、こんなにも楽しい理由_img0
プロのステージ、本番直前の私。衣装は、夜感も南国感も「Blue Ocean」感もあるロングドレスで。

そこから、怒涛の真剣練習が始まった。目標があると精が出る。
2曲、演奏することになった。ウクレレの登竜門とも言える曲「Crazy G」を、師匠と私のウクレレ2本の合奏で。もう1曲は、「住吉さんに是非歌も歌ってほしい」と師匠にリクエストいただき、ふたりの共通項にもなったバングルスの、「Eternal Flame」というミドルテンポの名曲を選んだ。

ライブ3ヵ月前からは「毎日必ずウクレレに触る」を目標に励んだ。師匠と一緒に、リハーサルもした。爪の手入れとか、右手のストロークのコツとか、師匠がその場でちょこっとアドバイスしてくれたことを実践すると、グッと弾きやすくなるから不思議だ。しかし、当日が近づくにつれ、不安も募る。ライブに来た人を嫌な気持ちにさせてはいけない。師匠の顔に泥を塗ってはいけない。眉間にしわが寄る私を見て、師匠は言った。