書店員など各界の漫画好きたちが、今もっとも人に推したい作品を選ぶ「マンガ大賞2022」。数々の話題作を抑え、今年は月刊アフタヌーンで連載中の『ダーウィン事変』が大賞に輝きました。

今回は、そんな注目作である『ダーウィン事変』と、今から約10年前に発売された『一匹と九十九匹と』から共通して感じる、作者・うめざわしゅん先生の“問いかけ”という作風に迫ります。
 

『ダーウィン事変』チャーリーの瞳が私たちに問う、社会問題

『ダーウィン事変(1)』 (アフタヌーンKC)

世にも珍しい“ヒューマンジー”として、生まれた瞬間から好奇の目に晒されてきたチャーリー。その後、チンパンジー研究の権威であるスタイン博士とその妻・ハンナに引き取られ元気に成長していきます。ですが、編入した高校では同級生たちから差別的な扱いを受け、さらには彼の出生に大きく関わったテロ組織「動物解放同盟(ALA)」が再び姿を現し、過激なテロ活動へ彼を引き込もうとします。

本作を通して浮かび上がってくる、人種差別や動物保護、テロリズムといった現代社会の問題。それらに対して、鋭い洞察力を持つチャーリーが放つ持論や、垣間見えてくる人間の矛盾や問題点などが見どころの一つ。

ですが、それ以上に、人間でありチンパンジーでもある異色な存在のチャーリーの印象的なまあるい瞳が「あなたはどう考える?」と……。まるで読み手である人間の私たちに問いかけてくるような不思議な感覚をおぼえます。

 


『一匹と九十九匹と』が問う、世の中に潜む不条理、生きづらさ

そして、こちらは今から約10年前に発売された、うめざわしゅん先生の短編集『一匹と九十九匹と』(全2巻)。

49日間の監禁から解放された女子高生のその後を描いた『海の夜明けから真昼まで』。硫酸を武器に、小人症のピンキーが裏社会の悪人を裁く『オーバードーズ』。とあるアーティストのファンという共通点を持ちながらも、それぞれ違う世界を生きる人々のドラマを描く『ポップロンド』など……。1巻には計6話が収録されています。

それぞれ登場人物もストーリーも異なりますが、共通して感じるのは、世の中に潜む不条理さ、そしてそれに翻弄される人々の姿を描いていること。

『海の夜明けから真昼まで』の主人公・麻衣はカナヅチ。小学生の時、クラスメイトに応援されて無理やり海を泳がされた結果、溺れてしまったトラウマが……。その時に感じた生きづらさを“暴力的な善意”と例えます。『一匹と九十九匹と(1)』

『一匹と九十九匹と』は、そんな生きづらさを抱えている人々がうちに秘めるものを、力強い筆致と印象的なセリフで私たちに問いかけます。

いつか人を殺してしまうかもしれない……。学校でも馴染めず、コントロールできない自分の感情に悩む同級生の氏家。そんな彼の目の前で、カナヅチの麻衣は海に飛び込む! 『一匹と九十九匹と(1)』


問いかけに思考を巡らせ、感想を言い合う楽しさ


『ダーウィン事変』と『一匹と九十九匹と』……。テーマは違えど、私たちに問いかけてくるような強烈なインパクトを放つところは、約10年前の作品から続く共通点であり、うめざわしゅん先生の真骨頂。

その問いかけに向き合えば向き合うほど、きっと誰かに感想を伝えたくなるところも今回ご紹介した作品たちの魅力の一つ。問いかけに思考を巡らせるのはもちろん、友人と感想を言い合って楽しんでみてはいかがでしょうか。
 

 

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『一匹と九十九匹と』
うめざわしゅん(著)

2010年に「月刊!スピリッツ」に掲載されたオムニバス・シリーズを収録した短編集。全2巻

 


うめざわしゅん
漫画家。2017年に『パンティストッキングのような空の下』が「このマンガがすごい!」のオトコ編第4位にランクインし、話題を呼ぶ。2022年には、月刊アフタヌーンで連載中の『ダーウィン事変』が「マンガ大賞2022」で大賞、「第25回文化庁メディア芸術祭」マンガ部門で優秀賞を受賞した。その他『ユートピアズ』『一匹と九十九匹と』『ピンキーは二度ベルを鳴らす』『えれほん』など。