人間(ヒト)は、チンパンジーなどの類人猿と共通の祖先から枝分かれして進化してきました。さまざまな生物がいる地球で、人類は地球を支配しているかのような存在になっていますが、現在の人類が進化の最終形というわけではありません。もしかしたらより環境に適応し、優れた能力を持つ生物に進化していくかもしれないのです。現在、アフタヌーンで、ヒトとチンパンジーの間に生まれた交雑種(ハイブリッド)である“ヒューマンジー”の物語「ダーウィン事変」が連載されています。高い知性と身体能力を兼ね備えた“ヒューマンジー”の存在が、人と生物の境界線や倫理観にグラグラと揺さぶりをかけてくる、すごい作品です!

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『ダーウィン事変(1)』 (アフタヌーンKC)

物語のはじまりは、現在より遡ること15年前。舞台はカリフォルニア州エスコンディードのストラルド生物化学研究所。ここに突然、武器を持った仮面姿の男たちが乱入します。彼らは動物解放同盟(ALA)と名乗り、施設内にいた実験動物の檻を開けて解放。流産しかけているチンパンジーのメスを発見して近くの動物病院に運び込みました。

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そのチンパンジーが身ごもっていたのが、人間とチンパンジーの間に生まれた交雑種(ハイブリッド)、“ヒューマンジー”でした。遺伝的な父親は失踪中の生物学者で、行方知れず。社会的に大きな注目を集めた“ヒューマンジー”はチャーリーと名付けられ、チンパンジー研究の権威であるスタイン博士とその妻・ハンナが引き取り、育てることになりました。

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15年後、ミズーリ州シュルーズヴィルでスタイン博士夫妻と暮らしているチャーリーは、高校に編入することになります。学校では、チャーリーのことで騒然としていました。「インスタ映えしそう!」と好奇心丸出しの学生や、「僕はあんまり近づきたくないな…」と不安視する学生など、反応は様々。

 

授業の休み時間のこと、木の上に登って降りられなくなった猫がいました。猫を助けようと木に登り始めたのはルーシー。周囲からは優等生だけど陰キャな“ナード”(社交的ではなく、オタク的なニュアンスで使われることも)と見られています。木の上で猫を助けることに成功した直後、ルーシーがまたがっていた枝が折れてしまいます。猫とルーシーが落ちそうになったその時、教室の窓から様子を見ていたチャーリーが飛び出して、ルーシーと猫を救います。

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ランチタイムになり、一人で昼食を食べるチャーリーの前にルーシーが現れ、目の前に座ります。そこで、チャーリーに「ヒューマンジーなのってどんな感じ? やっぱり私たちとは世界の見え方が違う?」と尋ねます。チャーリーの答えは「人間(ヒューマン)なのってどんな感じ?」。

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この会話がきっかけで、ルーシーはチャーリーと友だちになることに。そして、彼女たちが知らない間に、チャーリーがルーシーと猫を助けた瞬間を捉えた動画がSNSで拡散されていたのです。

その5日後、ニューヨークのステーキハウスで無差別爆発テロ事件が発生します。犯行声明を出したのは、かつて、チャーリーを研究所から連れ出した動物解放同盟(ALA)。過激なヴィーガンテロ組織で、ステーキを食べている人たち(肉食者)を見せしめに殺すことで、人間だけに特権があることを捨て去り、すべての動物の平等な権利を主張するのが目的でした。そんな彼らの次なるターゲットはヒューマンジーのチャーリー。人間と動物の架け橋的存在である彼を、自らの主義主張のために担ぎ上げようとしていたのでした。

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生まれた時から注目を集め、社会的な好奇の目にさらされ続けてきたチャーリーですが、彼自身はとても物静か。明晰な頭脳と人間離れした運動神経を持っていることを感じさせず、学校であからさまな敵意を剥き出しにされても、冷静さを保っています。でも、穏やかなチャーリーとは対照的に、学校や地元警察、ALAなどからは不穏な雰囲気が立ち込めており、この先、いろんな立場の人の思惑に否が応でも巻き込まれていくことになります。

物語のキーワードの一つである「ヴィーガン」は、日本語では「完全菜食主義者」で、動物性由来の食品を一切口にしません。健康上の理由でヴィーガンになる人もいれば、動物の生きる権利を守るという信念を持つ人もいます。本作ではチャーリーも育ての親もヴィーガンですが、同じくヴィーガンでも動物の権利を主張する、過激なテロ組織ALAと同一とは言えません。それを言うならば、人間も人間というだけでひとくくりにできるものではありません。

15歳とは思えないほど達観している感のあるチャーリーは、学校生活を通して、その真っ直ぐな眼差しで逆に人間たちを観察しています。周囲はチャーリーのことを特別視して、彼を避けたり、敵視したり、彼を担ぎ出そうとしたりしますが、チャーリーにとっては、「君もボクも すべての動物はただの1(ONE)だよ」と実にシンプル。人間とチンパンジーの間に立ち、聡明で鋭い洞察力を持つチャーリーだからこそ、人間が抱える矛盾や問題点など見えるものがあり、物語を通じて、読み手である人間たちにその事実を突きつけてきます。

物語のテーマは重層的で深く、決して簡単なものとは言えません。また、舞台はアメリカなので、ちょっと遠い話と感じる人もいるかもしれませんが、人間と動物の存在、正義のあり方、異なる価値観の対立など、さまざまなことについて考えさせられると同時に、スリリングなエンターテインメントとして成立しているので、かなり読み応えのある作品です。1、2巻はすでに重版がかかっていて、11月22日には3巻も発売されます。今読まずにいつ読む? 物語の世界観に圧倒されること間違いなしです。

 

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作者プロフィール
うめざわしゅん

漫画家。作品集『パンティストッキングのような空の下』が「このマンガがすごい!」2017(宝島社)のオトコ編第4位にランクインし、話題になる。
他作に『ユートピアズ』『一匹と九十九匹と』『ピンキーは二度ベルを鳴らす』『えれほん』など。

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『ダーウィン事変』
うめざわしゅん 講談社

人間とそれ以外による世界大革命

私の友達は、半分ヒトで、半分チンパンジー。 テロ組織「動物解放同盟(ALA)」が生物科学研究所を襲撃した際、妊娠しているメスのチンパンジーが保護された。 彼女から生まれたのは、半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」チャーリーだった。

チャーリーは人間の両親のもとで15年育てられ、高校に入学することに。 そこでチャーリーは、頭脳明晰だが「陰キャ」と揶揄されるルーシーと出会う。