ふと、なにかが動いたような気がして目を上げると、窓から光が静かに射しこんでいました。

翳の中に沈んだ部屋に強いコントラストを与えて、とろりと蜂蜜色の光線が半分だけ花々を照らし、時が止まったかのよう。思わずシャッターを切りました。

光があたるボヘミアングラスは、透明度を増して水晶のように輝き、星と呼応する7つの金属で作られたシンギングボウルは深く闇の中に沈む。

オリーブオイルを入れるためのイタリアの古い大鉢は、テラコッタがほのかに明るさを増し、上に載せた鉱物とおしゃべりしそうな気配です。

我が家は築60年以上の古家で、母が晩年、気楽な一人暮らしを楽しんでいました。

様々な事情で50代の半ばにそこに移り住みましたが、間取りの狭さをはじめ、なにやかやと、なかなか思い通りにはいかないことが多い家です。

でも、この日、窓辺の情景を眺めているうちに、「陰翳礼讃」という言葉を思い出しました。

谷崎潤一郎は随筆「陰翳礼讃」の中で、日本古来の考え方は「美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える」と述べています。

和紙の白、漆のぼんやりとした明かり、着物の女の首や手の白さ、そして羊羹の暗い色まで、すべては闇と光の対比からその美しさが生まれる、というのです。

これを読んだとき、思わぬ発見をした気分になりました。

季節ごとに色も手触りも透明度も、そして匂いも違う光、それが作り出す翳。

四季からの贈り物とも言えるそんな陰翳を、インテリアのひとつのように楽しんでいけたら、と思っています。