すでに米アマゾンはAI化の取り組みを始めており、「プライム・ワードローブ」という新サービスを開始している。プライム・ワードローブは、購入前の服を自宅で試着できるというもので、今回のZOZOと基本的な仕組みは同じである。

だがプライム・ワードローブのサービスはそれだけにとどまらない。同社は同じタイミングで、会話型AIスピーカーである「エコー」の機能拡張版「エコールック」を発売しており、これがサービスのカギを握っている。


アマゾンが発表した「echo look」のオフィシャルキャンペーンムービー

エコールックは、従来型のエコーに加え、全身写真を撮影する新しい機能を搭載したものである。カメラやフラッシュが内蔵されており「写真を撮って」と話しかけると、全身写真を自動で撮影してくれる。服装に関するアドバイス機能もあり、2種類の写真をアップするとAIが色やデザインを解析し、どちらの洋服が似合うのか助言してくれる。

感性が支配すると思われていた分野においても、AIを活用することでかなりの部分まで数値化、類型化が可能となっている。こうしたインフラが整えば、店舗に行って試着する必然性はさらに低下するだろう。
 

ZOZOが目指す完璧なエコシステム


当然のことだがZOZOも同じ事を考えている。同社は独自ブランド商品の発売と同時に、スタートトゥデイ研究所を発足させた。

同研究所の詳細は明らかにされていないが、ECサイトから得た膨大なビックデータと、ZOZOスーツから得られる計測データを活用し、ファッションを数値化していく方針だという。アマゾンと同様、AIを使ったアドバイス機能をZOZOのサービスに加えてくるのはほぼ間違いない。

もしZOZOがこうしたインフラを完備することになれば、アパレル業界の雰囲気は一変するだろう。

ショップという概念が衰退する可能性があり、店舗網に支えられていた従来の勝ち組企業が一気に競争力を失うというシナリオが現実味を帯びてくる(GAPの不振はもしかしたらその兆候かもしれない)。しかも、影響はこれだけにとどまらない。

ZOZOが開始した定額購入サービスは、新品の服に限定されるものではない。古着であっても同じモデルが導入可能であり、これが実現した場合、ひとつのECサイトの中で「新品」「返却された新古品」、そして「中古品」が循環する、完璧なエコシステムが完成する。

つまりZOZOの取り組みは、メルカリの一人勝ちとなっているフリマのビジネス領域までも浸食する可能性が見えてくるのだ。ZOZOがそこまで狙っているのだとすると、将来のポテンシャルは計り知れない。


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加谷 珪一/経済評論家
1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「新富裕層の研究-日本経済を変えるあらたな仕組み」(祥伝社新書)、「お金持ちはなぜ、「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「教養として身につけたい戦争と経済の本質」(総合法令出版)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。