教員個々は多様である。

アクティブラーニングを標榜し、ITなども活用しながら、どこか空回りでちっとも生徒の関心を引きつけられない授業もあれば、従来型のチョーク一本で教え込むタイプの先生の中にも素晴らしい方もいる。私は、そういう従来型の先生方も、いわば絶滅危惧種であるが大事にした方がいいと思う。おそらく将来、そのような方々の教授法から学ぶ部分も、かえって出てくるだろうから。

しかし、改革の流れを大きく引き戻すことはできないだろう。社会が、世界が、そのように変化している以上。


さて、では、「変われない」「変わりたくない」という教師には、どのように対応するべきなのだろう。

私は名より実を取るタイプなので、受験勉強原理主義のような人々を説得するのは諦めて、いまの改革路線に多少の疑問と不安を抱いているいわば中間層の教員に、以下のように訴えるようにしている。

「基本は、おそらく基礎学力です。七割方は従来型の基礎学力と言ってもいい。いくら改革が進んでも、とりあえず、しばらくの間は英単語も年号も覚えなければならない。またそれを覚えるのに、多少の意義もあるでしょう。しかし、特に2020年以降、残りの三割で大きな差がつく時代が来ることは間違いない。しかも、この三割の部分は、小さい頃から少しずつ身につけておかないとなかなか定着しない。だから初等中等教育の重要性が増してきます」

では実際に、どれくらい「変わる」のかというと、これが誰にも分からない。

文科省は当初、2020年には、六割程度の大学入試が、何らかの形でこの新制度を導入するのではないかと考えていたようだ。まず、何をもって「導入」というかの基準が曖昧だが、これまで紹介してきたような手間暇をかけた新しい入試を実施できるのは、総受験者数で見ると二割から三割にとどまるのではないだろうか。入学定員が5000人を超える規模の大きな大学では、このような時間のかかる入試を、すぐに全面実施するのは物理的に不可能だからだ。

文科省は、入試改革の進捗度合いによって補助金の額を増減するといった飴と鞭の政策をちらつかせているので、おそらくマンモス大学は、一部のAO入試などを改革し、その枠を広げることでとりあえず改革の姿勢を示すことになるだろう。

これまで紹介してきたお茶の水女子大学や国際基督教大学のように、比較的所帯が小さくて教員団の優秀な大学なら、入試改革を全学的な取り組みとして進めることもできるだろう。だが残念ながら、日本の多くの大学は長年規模の拡大を是としてきてしまったために、小規模で優秀な大学が、諸外国に比べても極端に少ない状態になっている。

あるいは四国学院大学のように、学長の強いリーダーシップで改革が進む大学も、ごく稀にあるだろう。

 国立大学は、2020年には入学者の三割程度をAO入試などの特色ある方法で選抜するとしている。だが大きな国立大学ほど、学部ごとの独立性が強く、全学一体での改革が進まない状況にある。

問題は山積していて、未来を見通すことはできない。では、どうすればいいのだろう。

私は、新制度入試の対象になるいまの高校1年生とその保護者たちには、以下のように話すようにしている。

「未来のことは分かりません。たった2年半後の2020年のことさえ、よく分かりません。もしいまの時点で、日本の未来の教育はこうなりますと断言するような人がいたら、まず怪しいと思ってください。

しかし、分からないなりに、一つだけ言えることがあります。おそらく、これまでのように偏差値で入れそうなところに入るような大学進学は意味をなさなくなるということです。

ぜひ、大学の質を見極めてください。

小さくて無名でも改革の進んでいる大学もあります。大きくても、その大きさゆえに改革の進んでいない大学もあります。

また、皆さん一人一人の向き不向きもあります。しばらくは従来型の受験システムも残ります。自分はコツコツと努力を積み重ねるタイプだと思うなら、そちらを選択すればいい。部活の部長さんタイプ、面倒見がよかったり、人の意見をよく聞けたり、あるいはユニークな発想ができたりする人は、いまから少しずつAO入試対策をしていってもいいかもしれません。

・アドミッションポリシーがしっかりしているか
・そのアドミッションポリシーに合った入試制度になっているか
・その入試に、きちんと手間暇をかけているか

なども重要なポイントになってきます。過渡期ですから、入試改革に真摯に取り組んでいるかどうかは、実は大学全体の将来に対する態度を表すことになるからです。

志願者数の増加や、就職率など外形的な数字にごまかされず、初年次教育や、途中での学部学科の変更が可能かなど細かい制度設計がなされているか。要するに教えやすいような制度ではなく、学びやすい制度になっているかどうかもよく見てください」

(つづく)

 
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