全編フランスで撮影した是枝裕和監督の最新作『真実』は、女優を主人公に、母と子の関係を軽やかに描いた作品です。母で大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が自伝「真実」を出版したことをきっかけに、ひさしぶりに実家に戻った娘で脚本家のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)。ふたりは母の親友でライバルだった女優サラの死をめぐり、わだかまりを抱えています。
今回は是枝裕和監督と、日本語吹替版でリュミールを演じる宮﨑あおいさんの対談をお届けします。監督がその「声の表現の幅広さ」を絶賛する宮﨑さん。作品に臨んだ彼女のなかに是枝監督が見た「女優のすごさ」とは、作品がたどり着く母と娘の「真実」とは、いったいどんなものでしょうか?
是枝監督の中には“おばちゃん”がいる
この日、来日したジュリエット・ビノシュさんも含めた三者の取材を終えたばかりだった是枝さんと宮﨑さん。このプロジェクトをビノシュさんとともに2年にわたって作り上げてきた是枝さんと、ビノシュさんの大ファンだという宮﨑さんは、彼女の魅力をどのように感じたのでしょうか。
宮﨑あおいさん(以下、宮﨑) 主人公が女優という設定なので、より興味深く見ました。二人の間にいる男性たちも印象的でしたし。でも正直なところ、ビノシュさんの吹き替えをする前提で観てしまったので、一番観ていたのは彼女の表情です。実際に声を当てるときには、台本を見ているほうが多くなってしまうので、ビノシュさんがどういう表情でセリフを言っていたのか、頭の中にあるように。
是枝裕和監督(以下、是枝) ビノシュさんは表情ひとつですごく深い表現ができる女優さんですよね。
宮﨑 私はビノシュさんの笑顔がすごく好きで。口を開けて笑う表情がとてもチャーミングなんです。「笑い」の表現って吹き替えの声だけだと難しいんですが、彼女の笑い声を耳にしながらすることで自然に気持ちがついていった気がします。今回の来日で初めてお会いして、最初のご挨拶では棒のように固まってしまったんですが、その後の取材でご一緒したときは、監督越しにお顔をずっと見ていました。映画の中と同じ笑顔で笑っていらして、すごく素敵な方だなあと。そういえばその取材の時、ビノシュさんが、是枝監督の中には……。
是枝 おばちゃん(笑)?
宮﨑 そう、「“おばちゃん”がいるから」とおっしゃっていましたね(笑)。女性同士の、あのリアルな会話はそういうことか、納得、と思いました。
是枝 特に観察しているわけではないですが、僕は母親と姉二人がいる環境で育ったので、女性同士のやりとりは普通に、面白いなあと思いながら見てきているんですよね。
宮﨑 誰よりも観察されているんだなあと思います。監督とお話していると、心の中まで見透かされているように感じますし。
是枝 気を付けます(笑)
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