ビジネスもスポーツと同様、目的はハッキリしていますから、チーム全員がプロとしての自覚を持ち、目的合理的に行動すれば言語や人種、文化の壁を乗り越えることは可能です。プロとしての自覚を持つためには、チーム(あるいは会社)というものは、与えられるものではなく、目的に沿って自分たちで作り上げるものだという認識が必須となります。

社会学の分野には、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトという概念があります。

ゲマインシャフトは、一般に共同体組織と呼ばれ、地縁血縁や人間関係によって自然に結びついた集団のことを指しています。日本のいわゆるムラ社会は典型的なゲマインシャフトといってよいでしょう。一方、ゲゼルシャフトはこれとは正反対で、目的合理的に、そして人為的に作られた組織を指します。グローバル企業やラグビーの日本代表チームはゲゼルシャフトの典型です。

ゲマインシャフトは、自然発生的であり、構成員にとっては所与のものなので、組織の意思決定もあまり合理的には行われません。情緒が優先されますから、全体としては不利益だったり、一部の人が極端に被害を受ける状況となっても、多数派の人が納得出来る形でしか物事は決まりません。日本社会における「和の精神」はまさにゲマインシャフト的な意思決定方法です。
 一方、ゲゼルシャフトにおける意思決定は全く異なります。ゲゼルシャフトでは、契約関係や合理性、公平性、利益が重視され、しっかりとルールが決められます。

ごく簡単に言ってしまうと、ゲマインシャフトは「好き嫌い」で物事が決まり、ゲゼルシャフトは「ルール」で物事が決まると考えればよいでしょう。
 

 

日本人は、好き嫌いで物事を判断する傾向が強く、組織というものは自分たちがゼロから作り上げるものという意識を持っていません。組織やそこでの掟(おきて)はもとから存在しているという、受け身な人が多いのです。実際、組織内に無意味な業務があっても「ウチの会社はそういうものだ」として、改善しようとしないケースは多いですし、日本人が見直すべき点が議論になっても、「日本と外国は違う」といって最初から対話を拒絶してしまう人も少なくありません。
日本人の多くが、性別や国籍、年齢などに過度にこだわり、合理的に振る舞えないのは、こうしたゲマインシャフト的な価値観を持っていることが原因です。

 

江戸時代より前であれば、自分が住む場所や身分を選ぶことはできませんでしたが、今は社会の仕組みがまったく異なります。個人が主体性を持って組織とルールを作り上げるという意識が必要ですし、それさえ実現すれば、日本人であってもワンチームを作り上げることは、それほど難しいことではありません。

逆に言えば、そうした意識を持てない限り、場当たり的に対策を施しても、本当の意味でワンチームを作り上げることは不可能でしょう。
 

前回記事「災害大国・日本の治水事業が間に合っていないホントの理由」はこちら>>

 
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