夕方の顔に、赤い口紅をひと差し。

 


まだ、残暑が厳しい季節だったでしょうか。
仕事終わりの午後7時から、打ち合わせのために、ヘア&メイクアップアーティストの女性と待ち合わせ。直前の仕事が早めに終わった私は、ほんの少し明るさが残る夕方、カフェに先に着き、ぼんやりと考えごとをしていました。

 

「お待たせしました」とやってきたその人に、目が釘付けになりました。

黒のブラウスにストレートのデニムと、いつも通りのカジュアルな装いでありながらも、唇には赤の口紅が綺麗に塗られていたから。いつも黒子に徹していて、化粧気をあまり感じさせない彼女だからこそ余計に、ギャップにどきりとさせられたのです。

素敵ですねと声をかけたら、こんな答えが返ってきました。
「撮影を終えて、鏡の中の疲れ切った顔に、びっくりしたの! これでは皆さんにお目にかかるのに、あまりに失礼かな、と思ったんです。ちゃんとメイク直しをする時間はなかったけれど、口紅だけは、綺麗な色をつけようと思って……。じつは最近、そうしようと心がけているの」

元気に見えるのみならず、いつもより肌が明るく見え、口角も上がって見え、色っぽい印象でした。これが、赤い口紅の効果。存在ごと華やかにするのだと改めて思い知ったのです。

「何より、綺麗な色の口紅を差すと、それだけで気分がぐっと上がりません? きっと誰もが夕方の顔には疲れが滲んでいると思うんですけど、口紅はそれを払拭して、心まで元気にしてくれると思うんです」
だから今日から、赤い口紅をポーチに、一本。


アイシャドウも口紅も
指塗りなら、自然に。


アイシャドウも口紅も、ブラシで塗ると均一に、指で塗ると不均一になります。もちろん、メイクを綺麗に仕上げたいときには、ブラシ使いがおすすめ。
ただ、私の日常は、指塗りのことが多いんです。それはメイクしたての顔と、時間が経ってからの顔との差が生まれにくい、つまりは、自然な顔を最初から作れるから。

アイシャドウも口紅も、指塗りだとそのものずばりの色から3割減、5割減のつき方が叶うので、少しずつ少しずついい塩梅に調整することが可能なのです。
洋服を自分なりに着崩すように、指塗りメイクを楽しんで。

Photo by Cris Trung on Unsplash


髪を切ると、毎日が変わる、
人生が変わる。


「髪を切って、幸せになった女性を数えきれないほど、見てきました」
ある男性ヘア&メイクアップ アーティストがこんな話をしてくれました。以前、サロンに在籍していたころ、髪を切ってヘアスタイルを変えた途端、肌色が変わり、表情が変わり、サロンに来る「前」と来た「あと」では、まるで違う人に見えるケースが少なくなかったと言うのです。

その理由は、新しい自分に出会えるから。

髪が、停滞していた自分の気持ちのスイッチを押し、誰かに会いたくなる、どこかに出かけたくなる、何かを始めたくなる……。結果、毎日が変わり、人生が変わるのではないでしょか? 決して大げさなことではなく、誰もが持っている可能性なのだと思います。

もちろん、スイッチは、髪だけではないはずです。

少しだけ背伸びした服や靴を買うのもいい。似合わないと決めつけていた色の口紅や、苦手意識を持っていたアイラインに挑戦してみるのもいいでしょう。ジュエリーをつけたり、ネイルカラーを塗ったり、そんなちょっとしたことが背中を押してくれるような気がします。停滞しがちな大人ほど、スイッチ探しが必要だと思うのです。

そういえば……! 年下の仕事仲間の女性の言葉を思い出しました。
「引っ越した途端、私、人格までも変わる勢いなんです」
 

 

綺麗好きになり、料理好きになり、そしてやっぱり、誰かに会いたくなり、どこかに出かけたくなり、何かを始めたくなったのだ、と……。環境を変えることもスイッチになる、きっと。

 

松本 千登世 美容ジャーナリスト・エディター。1964年鳥取県生まれ。神戸女学院大学卒業後、航空会社の客室乗務員、広告代理店勤務を経て、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務し、編集作業に携わる。その後、講談社で専属エディター&ライターとしての活動を経て、フリーランスに。女性誌や単行本など美容や人物インタビューを中心に活躍中。幅広い知識と穏やかな人柄が人気。『GLOW』(宝島社)『DRESS』(gift社)などの女性誌でコラムを連載中。著書『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。 今日も「綺麗」を、ひとつ。』『もう一度大人磨き 綺麗を開く毎日のレッスン76』 (以上、講談社)などがある。



次回、1月30日公開予定の後編は、15年来のロングヘアをばっさり髪を切った松本千登世さんご自身に、そのきっかけと心境の変化について伺います。どうぞお楽しみに!

<松本千登世さんインスタライブ公開収録イベント開催決定!>
松本千登世さんがミモレインスタライブに初登場! 『「ファンデーション」より「口紅」を先に塗ると誰でも美人になれる 「いい加減」美容のすすめ』の刊行を記念して、2020年2月28日(金)の夜、インスタライブ配信と合わせてミニイベントも同時開催いたします。

場所は、2020年1月10日にJR原宿駅前にオープンしたばかりの「@cosme TOKYO(アットコスメトーキョー)」にて。

ライブ配信は1F正面入口隣の公開型スタジオ「@STUDIO(アットスタジオ)」で行い、配信終了後は、同店のイベントスペースにてミニトークショーを開催予定です。
お席に限りがございますため、事前お申し込み式とさせていただきます。詳細は追ってご案内します。どうぞお楽しみに!

■日時 2020年2月28日(金)夕方〜夜を予定
■出演 
美容エディター 松本千登世さん
メイクアップアーティスト 水野未和子さん
MC:ミモレ編集部 川端里恵
 

<新刊紹介>
『「ファンデーション」より「口紅」を先に塗ると誰でも美人になれる 「いい加減」美容のすすめ』

著者 松本 千登世 講談社 1300円(税抜)


「レシピ通りじゃなきゃいけない人が多すぎる」ある料理研究家の言葉に気づかされたという松本さん。スキンケア、メイクもいつも順番通りでいい? レシピはあくまでも、目安であっておいしさや心地よさは、自分にしか決められない。ときにはファンデーションより先に口紅、メイクよりも先にヘアスタイリングしてみる。アイラインかマスカラどちらかでいい、たまにはファンデーションを塗らない日があっていい……。もっと自由でいい、そしてたどり着いた「いい」「加減」。そのときに自分らしい「綺麗」が生まれることも。
長年の美容の取材から「レシピ」とおりではなく、自分らしいスキンケアやメイクのすすめ。順番を変えたり、方法を変えて自分らしい「いい加減」美容がいい。すぐにできるちょっとしたヒント集。メイクアップを中心に、スキンケア、ボディケア、ヘアケア、ファッションから考え方、暮らし方など幅広く網羅します。
著者のこだわりの愛用品などを写真で紹介。
何もかもそんなにがんばらなくていい。年を重ねていくのも素敵なこと、読んだ後にそんなふうに思える1冊です。

撮影/目黒智子
 
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