大切な人に隠し事はありますか――?
2016年から月刊少年マガジンに連載中の漫画で、4月からアニメも放映されている『かくしごと』の主人公である漫画家・後藤可久士先生は、最愛の娘に大きな隠し事をしています。その秘密を守り抜くためなら、ものすごいエネルギーを費やすことも厭いません。果たして、可久士先生はどんな隠し事をしているのでしょうか?
透明感のあるイラストが印象的な漫画『かくしごと』の単行本の表紙。額に入れて部屋に飾りたくなるような爽やかさですが、この見た目に惑わされてはいけません(笑)。
この漫画の主人公は漫画家の後藤可久士先生と、彼が溺愛する小学四年生の一人娘・姫ちゃん。可久士先生は毎朝スーツを着て家を出るのですが、それは姫ちゃんへのカモフラージュ。途中でTシャツと短パンに着替えて仕事場に向かい、アシスタントたちと漫画を描く生活を送っています。
週刊少年漫画誌に連載を持っているなんて子どもに隠すどころか、誇ってもいいんじゃないの!? と思うところですが、可久士先生の作風はちょっと下品。『きんたましまし』というギャグ漫画が代表作で、うっかり本名でデビューしてしまったために、いろんな人から声をかけられて恥ずかしい思いをすることもしばしば。もしも大切な娘がこのことでいじめられることになっては大変だ! ということで、漫画家であることを隠し抜くことを誓ったのです。
とはいえ、姫ちゃんの担任の先生が『きんたましまし』のファンだったり、新しい担当編集者が、可久士先生が漫画家であることを娘に隠していることを知らずに(いや、わざとかも?)、連載中のキャラクターが大きく描かれたTシャツを着て自宅を訪れたり、姫ちゃんが友達に「お父さんはどんな仕事をしているの?」と聞かれたり、と波乱の連続。そのたびに可久士先生は騒動を巻き起こしつつ、なんとか秘密を守ろうとします。
この漫画の面白いところは、バレそうでバレない可久士先生の奮闘ぶりだけではありません。“漫画家あるある”が妙にリアルなところも見どころのひとつです。例えば担当編集者が身につけていたTシャツも、漫画家は「着れるやつ」とリクエストしていたにも関わらず、巡り巡って「何の漫画かわからないから」という理由で、キャラクターが大きくプリントされたものが出来上がってしまい、結局、「恥ずかしくて着られないじゃないか!」というオチが。
締め切り直前に現実逃避で、アシスタントと一緒に餃子やカレーを作る、というのは漫画家でなくてもよくある話(私も、原稿を書かなきゃいけない時に限って漫画を読みふけってしまい、ものすごい集中力を発揮します)。個人的にツボだったのは、「鎌倉病」。漫画家が締め切りに追われる日々に疲れて、「いつか海の近くで仕事をしたい」という妄想に取り憑かれ、ある日とうとう実行に移します。はじめは快適に仕事ができたのですが、「遠すぎてアシスタントが来てくれない」「店が閉まるのが早い」といった現実に直面し、挙げ句の果てには海に飽きてしまい、寂しくなって東京に戻ってしまうというものです。う〜ん、これもまさにあるある(私もかつて、鎌倉への引っ越しを真剣に考えた時期がありました……)。『かくしごと』では、漫画家の日常や、漫画家がどういうことを考えながら仕事をしているのかが垣間見え、それがちょっと自虐気味なので、ついつい笑ってしまいます。
単行本では「描く仕事の本当のところを書く仕事」というコラムがあるのですが、漫画で出てきたエピソードがネタではなく、作者の久米田康治先生の実体験にほぼ基づくものだということが分かり、しかもその内容がものすごく面白い! 描く仕事でセンスがある人は、書く仕事でもひと味違います。
ギャグや自虐ネタ満載の楽しい作品ではあるのですが、だからこそ、時々に描かれる、父と娘のほっこりとした日常や、愛情や絆が感じられる場面が心にのこります。姫ちゃんが素直でいい子!
物語では、なぜ母がいないのかといった細かいところには触れられていないのですが、コメディ要素の強い本編とは別に、18歳の姫ちゃんが出てくるカラーのエピソードが挿入されています。
18歳になった姫ちゃんは、父である可久士先生の「隠し事は描く仕事」を知ることになるのですが、可久士先生はそこにはいないような描写が続きます。父の隠し事を知った、姫ちゃんのその後の物語とは?
ちょっと下品なギャグやコメディなのに、スタイリッシュで爽やかな画風。笑いやハートフルなエピソードの合間に挿入される、父と娘の謎めいたストーリー。この物語の「隠し事」とは何なのか? その重層的な奥深さをぜひ味わってみてください。
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『かくしごと(1)』
著者 久米田 康治 講談社
漫画家の後藤可久士先生は、週刊少年漫画誌に、ちょっと下品な漫画を連載中!でもそれが、小学4年生の一人娘・姫にバレたらと思うと怖くて夜も眠れない‥‥。愛と笑いとワケありの漫画家パパ×娘物語、開幕!
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