岡江久美子さんの訃報に関する報道を見て、医師は「治療を続けるべき病気をお持ちの方が、余計な不安を抱えてしまうことにならないか」と感じたといいます。
新型コロナウイルス感染症患者だけでなく、がん患者などを多く診ている山田悠史医師にその「違和感」について寄稿いただきました。
過去の記事と合わせてお読みください。


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【新型コロナと「がん闘病」】岡江久美子さんの訃報から、医師が感じた違和感_img0
写真/アフロ

志村けんさんの訃報からまだ時を経ずして目にすることになってしまった岡江久美子さんの訃報。テレビを通してこんなにも身近だったお二人の命が奪われてしまったことは、本当に言葉になりません。

しかし、当日の報道でとてもひっかかったことがありました。

「昨年末に乳がん手術 免疫低下か」
「放射線治療を受け、免疫力が低下していたことで重症化した可能性があるという」

紙面にはこのような文字が並んでいました。

 


「がん」と新型コロナウイルス感染症は関係があるのか


もちろん、お元気そうだった方が突然の死を遂げられて、何か原因があったに違いないと探るお気持ちは察します。しかし、がん患者さんに日常的に接する医師として、この報道を見過ごすわけにはいきませんでした。

同じ治療を受けている方は、これを見てどう思うのだろう。

もちろん、私は岡江さんの主治医でもありませんし、病状の詳細は分かりません。そのような意味で、ここからは一般論としてお読みいただければと思います。

「がん」というと、恐ろしい病気、命を奪う病気、寿命が短くなる、などの事柄をすぐに連想される方が多いのでは、と思います。もちろん、残念ながらそのようながんもいまだ数多く存在することは否めません。

しかし、実際には物事はそう単純ではありません。人の顔や性格が人それぞれ違うように、同じ「がん」でも、そのがんの種類、進行度合い、患者さんによって、性質は実に様々です。また、治療も様々です。
 

がんと抗がん剤がもたらす免疫への影響


がんは、進行すれば全身の病気であり、これにより体力が奪われ、栄養状態が悪化し、免疫力が低下する可能性が大きくなります。

また、全身に広がったがんに対する治療は、どこかを切り取る手術だけというわけにはいかなくなり、多くの場合、全身的に有効な抗がん剤を用いた化学療法となります。

そして、この抗がん剤には、多くの場合「骨髄抑制」と呼ばれる副作用があります。

「骨髄」というのは、読んで字のごとく、骨の髄、皆さんの骨の中のことを指しますが、実はここにあらゆる血液の細胞の工場があります。

皆さんの体の中では、この骨髄で、血管の中を流れる血液の細胞を日夜生み出しているわけです。そして、免疫を担当する「白血球」と呼ばれる種の細胞も、この骨髄で生み出されています。多くの抗がん剤は、ここを攻撃してしまうため、白血球の赤ん坊も攻撃を受けてしまい、白血球が減ることになります。

これが、化学療法により「免疫低下」が起こるメカニズムの一つです。

なお、多くの抗がん剤は、がん細胞が正常の細胞よりも分裂の早い特徴を利用して攻撃をするため、体の中で比較的分裂が早いところは攻撃を受けやすくなります。先にご紹介した血液の細胞もまさにそうですが、髪の毛も同様です。このため、髪の毛が抜ける脱毛の副作用もよく見られるのです。これは、皆様のがん、あるいはがん治療に対するイメージに出てきやすい副作用かもしれません。

もちろん、抗がん剤によっては白血球も髪の毛も減らない抗がん剤もありますから、治療を受けるにあたっては、よく主治医に確認をするようにしてください。
 

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