免疫機能に影響を与えない、がん治療もある

【新型コロナと「がん闘病」】岡江久美子さんの訃報から、医師が感じた違和感_img0
 

一方、「免疫低下か」とタイトルに打たれた記事で紹介される内容によれば、岡江さんの病気は、「初期の乳がん」であり、「手術」と「放射線治療」を受けたとのことです。ここまで説明してきた「抗がん剤」の文字はどこにもありません。

 

我々医療界では、そもそも「初期のがん」という言葉をあまり使用することはありませんので、この言葉の意味も正確には分かりかねますが、少なくとも、進行期にはなかったということを伝えたものではないかと思います。

多くの「初期の」がんは、そのがんが発生した臓器にとどまっており、全身の病気ではありません。例えば、早期胃癌は、胃カメラで癌を切除するだけで、根治を見込める可能性が十分にあります。この時、この胃癌は、胃の粘膜を壊すという意味で、粘膜が壊れた場所での免疫を低下させているかもしれません。しかし、全身の病気ではありませんから、全身の免疫低下はほとんど考えなくて良いでしょう。また、内視鏡で治癒し、食事も十分取れるようになれば、免疫の機能はがんが全くない方と変わらないと言って良いと思います。

これと同様、乳がんでも、乳房内にとどまっており、他に転移がないのであれば、その顔立ちによって、腫瘍を摘出する手術、あるいは手術と放射線療法だけで、抗がん剤を用いずに根治することが可能です。もちろん手術の直後というのは、体力面で少し衰えがあるかもしれません。しかし、退院して日常生活を送っていれば、体力は少しずつ回復してくるものです。

また、放射線療法も、がんのある場所を狙って放射線を当てるのですから、全身的な負担は比較的少なく、免疫機能への影響もほとんどありません。

肺が乳房の近くにあるので、放射線が肺に当たって肺臓炎が起こり、これが新型コロナウイルス肺炎の経過に影響を及ぼす可能性は否定できませんが、そもそも肺臓炎発症のリスク自体も高くはありません。

このように、同じ「がん」あるいは「がん治療」といっても、体への影響は実に様々であり、免疫に影響を与えるものもあれば、ほとんど与えないものもあります。

また実際に、乳がんに対する手術や、術後の放射線治療が新型コロナウイルス感染症の重症化につながることを示した科学的根拠もありません。


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不安があれば主治医と話す時間を


私は一人の医師として、報道を見て、同じ診断や同じがん治療を受けられる多くの方が、誤解され、必要な治療を中断されてしまったり、過去に治療を受けた経緯から無用な不安を抱かれたりしていないか気がかりです。

実際、これは私個人の意見というだけではなく、日本放射線腫瘍学会もこの報道を受けて、同様の声明を出されていますので合わせてご確認ください。

もちろん、「がん」という診断から、今回のコロナウイルス感染の広がりを受けて、とても心配をされている方も多くいらっしゃると思います。治療を受けて大丈夫なのかとお考えの方もいらっしゃると思います。

しかし、せっかくコロナウイルス感染を逃れられたとしても、そのがんで体調を崩されてしまっては元も子もありません。報道を見てすぐに自己判断するのではなく、ぜひ主治医の先生と改めてお病気や治療についてしっかり話をする機会を作ってください。また、そのようなご家族がいらっしゃれば、ぜひ声をかけてあげてください。

我々医療者は、コロナウイルスの広がりの中で、一部の治療の延期をお願いしながらも、大切な治療が届けられるよう、常に準備をしています。
 

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