二十年振りと言われる好天に恵まれたパリの春。
嗚呼、何て幸運なことだろう。二か月近くに渡った外出制限期間中に、この素晴らしい季節の到来が、人々にどれだけの喜びと希望をもたらしたことか。
夏のような、強い陽射しの眩しい午後、手に取ったのは、太陽のように明るい色のワンピース。フランスはコルシカ島に住む若いアーティスト、marlo(マルロ)の作品だ。
イタリアにほど近い、地中海に浮かぶこの島には、フランス領でありながらも独自の文化を守り、独立を夢見る誇り高き人々が暮らす。この服はコルス人の様に力強く、人に媚びた所が全く無い。フランスの外出制限が終わりを迎え、これからは人々が一丸となって、新たな闘いのステージに進まなくてはならない、この瞬間に相応しいな、と思った。
「あなたね、こんなマニアックなメゾンの服を、パリで扱っている店なんてそうそう無いわよ!」なんて、誇らしそうに、お気に入りのセレクトショップのお姉さんが、娘自慢のごとく紹介してくれたのを覚えている。
何の変哲も無く、潔い程にシンプルなのに、身に着けた途端、その人の個性が前面に出る。こういう服に出遭うと嬉しくて堪らない。胸の開き具合、身幅、袖丈、スリット、ポケットの位置。全てのバランスがパーフェクトだ。これは丁寧に作られたものなのだ、と分かる。
消費者というものは意外と利口で、こういう事を敏感に感じているものだ。それはファッションだけに限らない。食品、空間、そして言葉でさえも、決して人を誤魔化せない。そういう風に感じる様になってから、物を購入する時に迷う事が少なくなった。
足元には、フランスの老舗靴メーカー、ロベール・クレジュリーの突っ掛け風サンダルを合わせる。白と黒、丸と三角のコントラストが印象的なこの履物は、遊び心がいっぱいで、白い部分がエンボス加工になっている。思いっきりパリスタイルだけれども、どこか和風が漂うアンビバレント。出遭った時には、クリエーターが私の為にデザインしてくれたのではなかろうか、とさえ思えた。
今は他資本に譲渡したメゾンを、創業者のクレジュリー氏が例えた言葉が美しい。
「私が狂おしいほど愛した、女性のようなもの。(…)そして今は、違う人が、彼女のそばにいる。」(AFP BB NEWS 2017.12.25インタヴュー記事より)
ソールに刻まれた旧ロゴにさえも、偉大な先代のスピリットを感ぜずには居られない。
人の心を感動させるものには、やっぱりそれなりの理由があるのだ。
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