会社勤めの人ならどこかでお世話になっているはずの人事部。採用や異動の時くらいしか接点がない、という人も少なくないかもしれません。その業務内容は人材の「確保・活用・育成」などと多岐にわたり、時にはセクハラやパワハラ、副業禁止規定といった労務トラブルへの対応も行うそう。普段はあまり前面に出てこない人事部にフォーカスしたお仕事マンガ『人事のカラスは手に負えない』が「BE・LOVE」で連載中です。
飲料メーカー「オーマエドリンク」の人事部で働く布田潤(28)は、ある日、朝からそわそわしていました。入社6年目にして初めての後輩が異動でやってくるからです。黒ずくめの装いに、声が小さすぎてコミュニケーションが取れない烏山千歳(25)は、早速“カラス”と呼ばれ、人事部の先輩たちに歓迎されます。ただし、着任前に謎の男との接触があり、謎に包まれた、少女のような女性です。
カラスは着任早々、先輩として大張り切りな布田から人事部の仕事についてレクチャーを受けます。「社員に関するすべてのことが対象なんだ」という布田のセリフに、思わず読み手の私も「そうだったのか」と頷いてしまう。人材は「資源」と言われることもありますが、相手はモノではなく人間。感情もあるし、環境や機会があればのびしろだってある。というわけで、極めて重要で責任重大ではあるものの、やりがいのある仕事と布田は説きます。
会社にいると、「上司から嫌なことを押し付けられる」「不条理なことを我慢せざるを得ない」「自分の努力はなかなか認めてもらえず、要領よくやっているあの人ばかり評価されて嫌気がさす」などと、多かれ少なかれ、嫌なことに直面するものです。人事部はすべての社員にとって働きやすい環境を整え、存分にパフォーマンスを引き出し、ひいては会社の成長につなげる……、というのが理想ではあるものの、それが実現できている会社ってどれだけあるの? という疑問も湧いてきます。
カラスへのレクチャーもそこそこに、社員総会の準備に向かう人事部の面々。いざ本番で、目立つことが大好きな社長が新製品を派手にお披露目しようとしたその時、大きなスクリーンに映し出されたのは謎の映像。誰かが「コノ中に副業禁止規定に違反シテ稼イデル悪イヤツガイマス」と、社員でありながら、実はこっそりと人気“9チューバー”として活躍していた平山城志を告発したのです。
平山は“9チューバー”としての活動は副業ではなく、あくまで趣味なので収入を得ていないから就業規則違反はしていないと主張。一方で、周囲の社員からは今まで平山に対して、「仕事をしないで定時で帰る」「チームワーク無視で部内の仕事をこなさず、有給も全部消化」などとたくさんの不満の声が挙がっていました。
「違反に当たるようなことは何もしていないし、会社を辞めるつもりはない」と主張する平山に、「会社は真面目に働いている社員の味方じゃないのか?」と爆発寸前のほかの社員たち。どちらの言い分も一理あり、悩ましいところです。
この対立の構図、どこの職場にもありそうです。権利ばかり主張して仕事をしない社員に、誰かがフォローしないと仕事が回らないからと、嫌々ながら尻拭いをさせられる周囲の人たち……。心情的には「あんなのとっとと辞めさせて!」というのが本音でも、会社としては何の違反もしていない社員を一方的に解雇することができないのが現状。
人事の仕事にやりがいを感じ、どうにかして全ての社員にとってベストな選択ができないかと悩む布田に、謎の新人カラスが「平山城志を辞めさせてご覧に入れます」と小声で宣言。一話はここまでなのですが、「わー、続きはどうなるの!?」と一番気になる終わり方です。続きは5月13日に発売されたばかりの単行本1巻で。
一人の自分勝手な社員のために、真面目な社員が馬鹿を見るというこちらのエピソードを皮切りに、自分のやり方に絶対的な自信を持ち、部下に容赦ないパワハラを繰り返す女上司、一波乱起きそうなインターンシップなど、「オーマエドリンク」の人事部には次から次へといろんな波乱が巻き起こります。
立場上、社員の恨みもかいやすそうな人事部ですが、この作品を通して、「こんな大変な仕事をしているのか」と知ることもたくさん。布田やカラスの活躍で、問題社員にしかるべき対応が取られた時は、スッキリした気分にも浸れます(現実の世界ではうまくいかないことが多々あるだけに、せめてマンガの中だけでも……)。一方、新人らしからぬ働きぶりを見せる謎多きカラスと、飲料メーカーの社員として一つの夢を持っている布田のこれからも気になるところ。仕事でちょっと疲れた時の気分転換になり、読後には仕事に対して少し前向きになれる作品です。
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『人事のカラスは手に負えない』(1)
大谷 紀子 (著) 講談社
パワハラ、セクハラ、忘年会スルー…会社員に降りかかるさまざまな問題を、アヴァンギャルドに解決していくお仕事マンガ。オーマエドリンクの人事部に異動してきたカラスこと烏山千歳(25)は、声がめちゃくちゃ小さくて、超絶マイペース。特技は先輩社員の布田潤(28)が話しているときに、缶コーヒーのタワーを積みあげること。すべてがナナメ上をいくカラスが、布田とともに、会社を誰もが自由に羽ばたける場所に変えていく。
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