かつて、『人は見た目が9割』というタイトルの新書がベストセラーになりましたが、服装や顔つき、立ち居振る舞いが相手に与える印象は大きいものです。特に初対面の時は、見た目の印象を手がかりに「この人は信用できるか?」「いい人だろうか?」と推測しようとします。実は見た目と内面が全然違っていた、なんてこともよくある話なのですが、そのギャップをうまく突いた斬新なお仕事マンガが『無能の鷹』。自分に自信が持てず、周囲の目を気にしてしまう人にぜひおすすめの一冊です!
自分が他人からどう見られているか? ということは、誰だって多少なりとも気になるものでしょう。ましてや、「すごく社交的に見られるんだけど、実は人としゃべるのが苦手」などというように、見た目と実際のギャップがあればなおさらです。
しかし、『無能の鷹』の主人公、鷹野ツメ子(って名前からして直球すぎて笑える)は、周囲が「もうちょっと悩めよ!」とツッコミを入れたくなるくらい、清々しいほどにそのギャップを気にしないタイプ。
とあるITコンサルティング会社の最終面接で一緒になった鶸田(ひわだ)くんが鷹野さんと初めて会った時の第一印象によると、「スマートな身のこなし」「きれいな発声」「人徳にあふれた顔立ち、それでいてまだまだ成長しますとでも言いたげな謙虚な物腰」と、“デキる人”オーラ全開とのこと。一方の鶸田くんは見るからに自信なさげで、胃痛に耐えながら面接の順番を待っていました。
鷹野さんの最終面接中、部屋の外に笑い声が聞こえるほどで、さぞかし重役たちの印象もかなり良かったのでしょう。鷹野さんと鶸田さんは晴れてその会社に採用されます。それから1年半……。
見るからに有能で、仕事をバリバリこなしそうな鷹野さんは、実は全くといっていいほど仕事ができず、周囲もさじをなげるほどだったのです(仕事中に堂々とYouTubeを見るのはさすがにどうかと思うけど……)。一方の鶸田さんは、先輩から「分析センスもあるし、提案内容もいい」と評価されており、ポテンシャルはあるものの、クライアントから頼りなく見えてしまうせいか、なかなか契約を取れずにいます。
もし自分が鷹野さんのような立場だったらどうでしょうか。周囲にものすごく期待されているにも関わらず、自分は何の結果も出せないとなると、焦りばかりが募って、出社拒否症になってしまいそうです。でも鷹野さんは違います。自分が無能であることは百も承知で、そのことで気に病むことは絶対にありません。「私が、この会社を必要としてるから。会社に必要とされてるかは考えないようにしてる」という台詞はなかなか言えるものではありません。この図太さ、逆に見習いたい!
ではなぜ、自分の能力を伸ばしたり、発揮したりできない会社に入ったのでしょうか? その理由もまた、潔いものでした。
いい大人が、「丸の内のオフィス街をかっこよく歩きたかった」「社員証をピッとしたかった」とはなかなか言えないもの。でも、とあるドラマの主人公が大企業の社員で、そんな場面に漠然と憧れた、なんてことならきっとあるはず。鷹野さんは臆面もなくそんなことを口にできるのです。
そんな鷹野さんを見ていた鶸田くんは、有能に見えてクライアントの信頼を得ることができそうな鷹野さんとタッグを組むことで、自分の自信なさげな見た目をカバーできるのではないかと考えます。同僚や先輩たちの心配をよそに、鷹野さんととある企業のプレゼンテーションに行き、見事に新規の契約を獲得します!
物語はこのあと、有能に見える女と無能に見える男の凸凹コンビが、いろんな仕事に立ち向かっていきます。ビジネスの内容はおろか簡単な漢字も読めない鷹野さんの自信ありげな態度に惑わされ、取引先が勝手に勘違いして、いいように解釈してくれるという微妙なすれ違い感がかなり笑えます! 鷹野さんを見ていると、空気を読んだり、忖度したりすることは一切なく(単にそれが出来ないだけだとしても)、自分を卑下することもなく、飄々と毎日をやり過ごしていきます。その姿勢こそ、この厳しい現実社会においてメンタルをやられることなく上手に生き抜く方法なのではないか、という気さえしてきます(これも鷹野さんの有能マジック!)。実際に鷹野さんみたいにならなくとも、この漫画を読むことで、自信を持てずにいる自分の辛さや、仕事のプレッシャーを多少なりとも緩和することはできるでしょう。
お仕事マンガといえば、主人公がさまざまな場面に直面し、悩み、葛藤しながら成長する物語が王道です。でも、『無能の鷹』はそんなセオリーの斜め上を行く、斬新な“ネオお仕事マンガ”。何かと辛いことが多い今だからこそ、鷹野さんというぶっ飛んだヒロインが舞い降りて、笑いの爪痕を残しているのです。
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『無能の鷹(1)』
著者 はんざき 朝未 講談社
鶸田は就職活動中、ある会社の面接で見るからにデキる女性(同じく就活生)・鷹野に出会う。スマートな身のこなし、落ち着いた声、着慣れたスーツ、自信に満ちあふれているのに謙虚。縁あって一緒にその会社に入社したふたり。ただ、1年半後、彼女は社内ニートになっていた。
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