2020年6月に発売された「大人なガリガリ君 ゴールデンパイン」
(メーカー希望小売価格100円(税別))

幼い頃、暑い夏のお楽しみといえば「氷菓」。
いまではコンビニやスーパーマーケットなどで通年販売され、季節に合わせた限定商品や個性的なフレーバーを持った氷菓も数多く登場していますが、なかでも1981年の発売以来、約40年にわたって長く愛され続けているのが当り付アイスキャンデー「ガリガリ君」(赤城乳業)です。
えっ、ガリガリ君? それって子どもが食べるアイスでしょ、と思ったあなた。
いえいえ、そんなことはないのです。実は、大人の私たちをも満足させてくれる、ワクワクのフレーバーがたくさんあるのです。

 

定番の「ガリガリ君」は、1本70円(税抜)とお財布にも優しく、代表的フレーバーは淡いブルーが印象的な「ソーダ味」。何度食べても飽きのこない程よい甘味で、薄いアイスキャンデーの膜(シェル)のなかにはかき氷(コア)が入り、口に含んだときの「ガリッ、シャリッ」という歯ごたえと爽快感がたまらないロングセラーの名品です。

老若男女を問わずファンの多い「ガリガリ君」は、2013年には年間販売本数が4億7500万本にも達し、いまや〈国民的アイスキャンデー〉とも呼ばれていますが、講談社の新刊『ガリガリ君ができるまで』(岩貞るみこ:文)は、その新フレーバー開発ストーリーを少年・少女向けにまとめた楽しいドキュメント小説。

「大好きなガリガリ君はどうやって作られているの?」という読者からの熱い声に応えるべく、埼玉県深谷市に本社を置くアイスクリーム専業メーカー・赤城乳業に徹底取材。架空の新人社員・稲葉ナナミを主人公に、本書オリジナルの新フレーバー作りが〈事実度90%以上〉というリアルさで興味深く描かれています。

実際の「ガリガリ君」は1981年の発売当初、「ソーダ味」「コーラ」「グレープフルーツ」の3種類からスタートしました。
当時、アイスキャンデーなどの氷菓を扱うのは駄菓子屋などの一般小売店が主流でしたが、赤城乳業はまだ数少なかったコンビニをあえて販売ルートのメインとし、1990年代前半にはコンビニ向けにフレーバーを年4回投入。さらに1997年には大手メーカーの牙城とされていたスーパーマーケットで7本入りの「ガリガリ君マルチパック」を発売するなど、その柔軟多彩なビジネスアイデアで「ガリガリ君」ブランドは急成長していきます。

人気の上昇とともに、「ガリガリ君」はシリーズを展開。
2005年には「シャリシャリ君」というネーミングで「ガリガリ君」が持つシャリシャリとした食感のかき氷部分だけをブロー容器に入れた吸うタイプの氷菓が、2006年には高級ラインの「ガリガリ君リッチ」と、「ガリガリ君」の妹をパッケージに描き、通常のかき氷部分をくちどけの良いシャーベットに替えた冬季向け商品「ガリ子ちゃん」が登場。2015年には後味が濃厚でジューシーな「大人なガリガリ君」が誕生しています。

「ガリガリ君リッチ チョコミント」(2020年)

「大人なガリガリ君 巨峰」(2020年)

「ガリ子ちゃん やわらかクリームメロン味」(2008年)

「シャリシャリ君 スポーツドリンク味」(2016年)

シリーズが増えたことで、フレーバーの数も拡大し、これまでに発売されたフレーバーは約140種類以上に及びます。
その内容は、通年商品「ソーダ味」をはじめ、「コーラ」「グレープフルーツ」「ぶどう」「梨」「りんご」「レモン」「みかん」「オレンジ」「マンゴー」「抹茶」「ミルク」「チョコ」……など、中心は果物フレーバー。
一方、2012年9月に「ガリガリ君リッチ」の新商品として発売後、インターネットで話題を呼び、予測を大幅に上回る売上で販売休止となった「コーンポタージュ味」や「クレアおばさんのシチュー味」(2013)、「メロンパン味」(2016)、「たまご焼き味」(2019)など、氷菓としてのマリアージュがまったく想像つかない異色フレーバーもファンを惹きつけています。

「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」(2012年)

「ガリガリ君リッチ メロンパン味」(2016年)

なかでも人気の高かったフレーバーは、「梨」と「マンゴー」。
逆に不振だったのは、ミント系ブームに乗じて発売された「グレープミント」と「シトラスミント」といわれています。さらに「ナポリタン味」(2014)は、「ガリガリ君」ブランド史上最も不評なフレーバーで、3億円もの損失を生んだとか……。
しかし、商品開発という挑戦に失敗はつきもの。
「どんどん失敗しろ! 失敗を恐れるな!」という社風を持つ赤城乳業では、全社員が〈あそび心〉を大切に、楽しみながら挑戦し、成果を生み出しているといいます。

誕生から約40年、新商品が登場するたびにその遊び心溢れるユニークなフレーバーや、巧みなマーケティング術で話題を集める「ガリガリ君」ですが、基本はあくまでも「味」に対するこだわり。
赤城乳業では果実を素材にした場合、その素材の味がはっきり・くっきりと味に出てしまうものは「よくない」とされ、「氷菓としてあえて食べてもらう」ことに常に重点を置いているといいます。
最も大切にしているのは、「微妙だけど複雑で、〈後味〉に印象が残るレシピを開発すること」。そのサジ加減とセンスが、商品開発者の腕の見せ所となるのです。
この、商品開発の熱いドラマについては、冒頭でご紹介した『ガリガリ君ができるまで』に詳しく描かれています。

コンビニでもスーパーマーケットでも小売店でも、季節を問わず氷菓が手に入る昨今ですが、やはり本番は夏。アイスメーカーの力も入ります。
今年はどんな新商品が、〈猛暑の友〉となるのか? いまから期待に胸が膨らみますが、ちなみにドキュメント小説『ガリガリ君ができるまで』のなかで主人公が挑むのは、あくまで架空のフレーバー。
実際の店舗では販売していませんので、お気をつけください!


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『ガリガリ君ができるまで』

岩貞るみこ:文 黒須高嶺:絵

わたし、稲葉ナナミ。ガリガリ君が大好きで、“新しい味”を作るため、商品開発部で日々奮闘中!でも、なかなかうまくいかなくて、挑戦しては失敗のくり返し・・・・・・。
でも、あきらめない! だってわたしには夢があるから。

発売以来、約40年にわたり大人気のガリガリ君が、どのように作られ、みんなのもとへ届くのかがよ~くわかる、楽しいドキュメント小説です!

文/寺田薫