バイデン氏は、あらたに1000万人規模の雇用を創出する計画を打ち出すとともに、オバマケア(オバマ政権時代に作られた新しい医療保険制度)の拡充も表明しています。米国には日本のような国民皆保険制度がないため、所得が低く民間の医療保険に入れない人は、事実上、病院にかかることができません。オバマケアの導入によって、無保険者の比率は16%から9%まで大きく下がりましたが、バイデン政権では、この数字がさらに低下するでしょう。 

2015年6月、オバマケアの補助金支出対象に関する裁判において合憲判断が下された。会見後、握手で互いをねぎらうオバマ大統領とバイデン副大統領(当時)。 写真:AP/アフロ

常識で考えれば分かると思いますが、こうした制度があるのとないのとでは、国民の生活水準に極めて大きな違いが生じます。雇用増加と保険制度の改革で中間層以下の生活水準の向上が見込めますから、国内消費の拡大が期待されます。

 

トランプ政権は基本的に減税で景気を刺激する政策でしたが、減税というのは、お金をたくさん稼いでいる人の消費を促す効果があります。これによってトランプ政権時代には株価も堅調に上がりましたが、富裕層に富が集中したことで、減税の効果もそろそろ限界に来ているとの指摘が出ていました。

減税でお金が増えると富裕層はたくさん消費をしますが、1人の人間が浪費できる金額には限りがあります。ここで中間層以下にうまく富がシフトすれば、今度は庶民の消費が活性化し、今の景気を持続できる可能性が見えてきます。

バイデン政権における最大の逆風は増税の影響でしょう。

一連の経済政策を実現するためには巨額の資金が必要であり、バイデン氏は増税と国債増発で財源を確保したい意向です。バイデン氏の当確によって株式市場は大幅に上昇するなど、今のところ増税によるマイナスよりも景気拡大への期待が大きくなっています。しかしながら、増税の規模が大きかった場合、株価が一旦、下落に転じる可能性は十分に考えられます。日本の株式市場は基本的に米国に連動していますから、米国の株価が下落すると日本にも悪影響が及ぶことになるでしょう。

まとめると、バイデン政権の誕生で長期的には経済にプラスですが、短期的には増税の悪影響が懸念されます。当然のことですが、新型コロナウイルスの感染状況によっては、経済がさらに縮小する可能性も否定できません。

バイデン氏はコロナ対策に積極的で、ワクチンの開発に全力をあげるとしていますが、マスクの義務化を主張するなど、命を守ることが最優先というスタンスです。感染拡大が止まらない場合には、ロックダウンなど厳しい措置が実施されますから、景気対策は後回しとなるでしょう。
 

前回記事「学術会議問題に思う、日本人に必要な「論点の切り分けスキル」」はこちら>>

 
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