40歳という節目で、女性は自らの生き方を振り返るものではないでしょうか。
「こんなはずじゃなかった」と後悔しても過去は変えられず、心も身体も若い頃には戻れない――。
これは立場の異なる二人の女性が人生を見つめ直す物語。
夫のストレスで脱毛症になってしまった美穂は、親友の早希に自分の不遇を悟られまいと必死になっていた。
***
「幸せ」を証明したい女
ーー♪♪♪
美穂のスマホの着信音が響くと、夕飯時の食卓に緊張が走った。夫の貴之の顔がたちまち不快に歪む。
「誰だよ。こんな時間に」
「ごめん」
素早くスマホを手に取り音を消そうとしたが、画面に早希の名前が表示されているのに気づくと、美穂はもう一度「ごめん」と断り、そっと通話ボタンを押した。
瞬間、スマホ越しに早希の明るい声が響く。
「美穂、少し話せるかな?」
夫の視線が背中に突き刺さるのを感じながら、静かにリビングを出る。早希は共通の友人である朋子が帰国したため、おかえり会をすると言った。
「今度は美穂にも絶対来て欲しくて。夜が難しければ昼でもいいし……」
親友の気遣いが痛いほど伝わる。きっと先日弱音を吐いてしまった件を気にしているのだ。
「ありがとう。……夜でも大丈夫よ」
美穂は自分に言い聞かせるように答える。もう早希に心配はさせまい。
「え……?夜でもいいの?」
「うん。なんとかする」
そうだ。何とかしなければならない。今度こそ彼女に元気な姿を見せて、何も問題などない、平穏で幸せな日々を送っていることを証明するのだ。
「ママ、ごはんのときは電話ダメだよー」
美穂は電話を切ると、コロッケを頬張りながら口を尖らせる息子にもう一度「ごめんね」と微笑んだ。
【写真】不倫ではない、でも……男と会う人妻
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