40歳という節目で、女性は自らの生き方を振り返るものではないでしょうか。
「こんなはずじゃなかった」と後悔しても過去は変えられず、心も身体も若い頃には戻れない――。
これは立場の異なる二人の女性が人生を見つめ直す物語。
未婚独身の早希が年下男を意識する傍ら、専業主婦の美穂は円形脱毛症に悩んでいることを告白した。
***
髪は、女の“命”なのに。
「私ね、脱毛症になっちゃった。髪がごそっと抜けたの」
表参道の骨董通り沿いのカフェで隣に座る早希に勢いでそう言ってしまってから、美穂はすぐに激しい後悔に襲われた。
どう反応していいか分からずに困惑した様子の早希を前に、申し訳ない気持ちが募る。
彼女の前で弱音なんて吐きたくなかったのに。
「髪は女の命」なんて言うけれど、物心ついた頃から、美穂は自分の髪を人一倍大切にしていたと思う。
丁寧に髪を巻けば美穂のパーツの小さな派手さに欠ける童顔もそれなりに華やかになったし、ファッション誌のモデルのような早希の美人顔には及ばずとも、彼女と並んでもそう見栄えは悪くない程度の演出ができた。
特段の取り柄もない外見の中で、髪だけは唯一自慢だった。
なのに。
−−美穂ちゃん……このへん、ちょっと髪抜けちゃってるね。最近疲れたりしてる?
20代の頃から通うヘアサロンで、仲良しの担当美容師にさり気なくそう告げられたとき。
大袈裟でも何でもない。
美穂は、自分の命が削られたような気がしたのだ。
【写真】夫のモラハラに耐える専業主婦・美穂
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