「公衆電話の上に置いてっちゃいます。ちょっとよくわかんないですよねー。へへへ」


一瞬、その場にいた人たちはどう反応していいかよくわからなかった。
猛はりつ子をちらっと見たが、りつ子は自分のグラスに視線を傾けながら話を続けた。

「あ、すみません。あんまりゆかりのない場所で、パッと捨てちゃう、みたいなことなんです」
「今までどんなもの公衆電話に置いてきたんです?」
女子大生が聞いてきた。

「指輪とか、ジュエリーとか、バッグ? あとはCDとか……なんだろなあ……」

「りつ子さんの世代って、車とか平気でもらっちゃうような時代?」

「ああ。それはもっと上でしょう。それもいいよね。そんなことされたことない。されたいな♪」

「けど、なんで公衆電話?」

「いや、それはなんとなく……。たとえばさ、よくドラマとかで思い出の写真とか燃やしたりするのあるじゃない? あれってやったことあるんだけど、写真って結構火の回りが早くて怖いんだよね。それに単純に、『燃えていく写真』っていうビジュアル的な印象がなんか強く残っちゃって、燃やすってことは、それ以来やらなくなりましたね」

「じゃあ、ただ捨てればいいじゃない」

「そうですよね。最近はそうしてます、へへへ」

なんとなくまた、鈴虫の声が大きく感じた。


「こういうこと聞くとさあ、公衆電話に次に入った人のこと考えると、びっくりよね。指輪があったり、バッグがあったり」

「でも、それは『忘れ物』じゃない」

「けど、誰が見ても忘れ物よねえ……永遠に落とし主の現れない落とし物だけど……捨ててるんだから……」

「忘れ物じゃなくて、それって、『忘れたいもの』ですよね」

そうである。「忘れたいもの」なのだ。