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健康、お金、住まい、人間関係など、老後に必要なものはいろいろ思いつきます。でも、いちばん大切なのはやっぱり、「生きがい」ではないでしょうか。ですが、体が衰え、認知症になり、物忘れが増えたお年寄りに何ができるのか? どうすれば楽しめる時間をつくってあげられるのか?

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NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」にも取り上げられた介護事業所「あおいけあ」(神奈川県藤沢市)代表の加藤忠相さんが、お年寄りの「強み」を見抜く独自の発想を教えてくれました。著書『世界が注目する日本の介護 あおいけあで見つけた じいちゃん・ばあちゃんとの向き合い方』から、家庭でも活かせそうなアイデアを紹介します。

 


「ありがとうございます」の言葉で、人は穏やかに暮らせる


介護の世界ではよく、お年寄りの「その人らしさ」を大切にしようと言われます。私は、「その人らしさ」とは、「本人が得意なことをしてほめられ、楽しい時間を過ごしている」ときにこそ発揮されると思っています。そのような時間のなかでは、お年寄りの心身はどんどん元気になっていき、欠けている部分が気にならなくなります。

また、介護する・されるという関係は、介護者に負担がかかるだけでなく、お年寄りも後ろめたさを感じるものです。しかし、自分の経験や知識を活かして役に立てるのであれば、それも解消されるでしょう。

「おかあさん、忙しいのでジャガイモの皮をむくのを手伝ってください」と頼まれて、ひとしきり皮むきをした後で、「ありがとうございます、助かります」と感謝されながら暮らしていれば、たいていの人は穏やかに過ごせると思いませんか?

 


その人の「存在意義」と「強み」を見抜くには


では、その人らしさを発揮してもらうためには、どうすればいいのでしょう。私は、お年寄りの「アイデンティティ」と「ストレングス」を知るところから始めるのがいいと思います。

アイデンティティとは「存在意義」のことで、お年寄りの場合は、「その人が人生のなかで大切にしてきたこと」が、アイデンティティであることが多いようです。

一方、ストレングスとは「強み」のことです。「得意なこと」「できること」と言い換えてもいいでしょう。もちろんお年寄りですから、加齢や病気・障害でできなくなることだってあります。でもたとえば、「歩けなくて車イス生活だけど、手は動くので包丁を使って料理ができる」なら、その「包丁で料理ができる」ことは十分、強みだと言えます。

アイデンティティとストレングスに注目すれば、自立支援につながる声かけや接し方はおのずと見つかります。

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たとえば、ある男性は、認知症のためトイレの場所がわからなくなり、自宅のあちこちで排尿していました。家族は毎日、後片付けに追われて、すっかり疲弊していたそうです。その男性には、認知症の他にこれといった持病はなく、身体は壮健です。元の職業を聞いてみると、車の修理工だったとのことでした。ここにアイデンティティがありそうです。修理ができたわけですから、車の知識もあるでしょう。「強み」が見つかりそうな気がします。

となれば、こんな声かけをしてみたくなりますよね。
「すみません、○○さん、車に詳しいって聞いたんですけど、うちの送迎車のタイヤ交換をお願いできませんか?」

すると、男性は驚くほど手際よくタイヤ交換をしてくれました。長年仕事をして身についた技術の記憶は、認知症になっても簡単には壊れません。そんな壊れにくい記憶を活用すること……「強みにアプローチする」とは、そういうことでもあるわけです。


料理、畑仕事など、可能性はいろいろ。すぐ始めるのが大事


たとえば、「あおいけあ」では、ばあちゃんに包丁を使って料理してもらいますが、その理由は「家庭的な雰囲気をアピールしたいから」ではありません。

ばあちゃん世代なら、40年、50年と、毎日毎日、料理をしてきたはずです。そういう人の場合、認知症が少々進んでも包丁の扱いは手が覚えていて、それが本人にとっても「得意なこと・好きなこと」なのです。いざ始めれば集中しやすく、失敗もそうそう起こりません。上手にできれば自信につながりますし、周囲がほめれば、いよいよ意欲がわくでしょう。「自分らしさ」を存分に生かしてもらえるのです。だから料理をしてもらっています。

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畑仕事も、それが身に付いたことであれば十分できます。「あおいけあ」には「農業部長」と呼ばれている男性利用者が本当にいます。もともとは寝たきりの人でしたが、後にスタッフに農作業を熱血指導するまでに回復しました。

「農業部長」はNHKの取材を受けたことがあります。畝づくりの様子が放送され、「本職だから」「ま、底力」と決めゼリフ。カメラの前でニカッと笑っていました。担当ディレクターは局の月間賞を獲得したそうですが、これも部長の底力(?)でしょう。

最後に、「強み」を発揮してもらうために大切なことをもう2つだけ補足します。ひとつは、「介護する側がさせたいこと」ではなく、「お年寄りがやりたいこと」に合わせていく、ということ。

もうひとつは、時間をおかずすぐ始めることです。たとえば「○○しましょう」とお年寄りと申し合わせて、その後、準備に2週間かかったとしましょう。実行するときに介護者が「○○しましょう」と言っても高齢者は忘れてしまっているし、すでに「やらせる人/やらされる人」の関係ができてしまっています。

でも、即決すれば「みんなでやる!」になりますよね。だから「あおいけあ」では、「企画書・稟議書は不要です」「加藤に聞いて『やって!』と言うと思ったら行動してください」とスタッフには伝えています。何でもOKという意味ではありません。普段から話ができる関係を、お互い気をつけてつくっているからできるんです。

【マンガで読む】あおいけあが実践する本当の「自立支援」とは
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加藤忠相(かとう・ただすけ)
株式会社あおいけあ代表取締役社長。25歳で起業し、地域を巻き込んだ独自のケア事業を開始する。その取り組みがNHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」ほか多数のメディアで紹介され、海外でも学会などで取り上げられて話題に。2019年には高齢者ケア分野で世界的な影響力のある人物として「Ageing Asia Global Ageing Influencer」に選出された。写真/川上哲也

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『世界が注目する日本の介護 「あおいけあ」で見つけた じいちゃん・ばあちゃんとの向き合い方』
加藤 忠相 (著) ひらまつ おさむ (著)

今、日本で一番注目されている介護事業所「あおいけあ」での毎日を、ストーリー漫画でわかりやすく紹介。マニュアルも細かいルールも一切なし、なのにお年寄りが穏やかに生き生きと過ごせる秘訣とは? 介護で悩んでいる人はもちろん、そうでない人にも知ってほしい“これからの認知症ケア”の決定版。


文/からだとこころ編集チーム
マンガ/ひらまつおさむ
構成/山崎 恵

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