【認知症介護】お年寄りも自分も傷つかない「言葉かけ」3つのコツ_img0
 

「おじいちゃんが、わけわからんこと言うんですよ」「おばあちゃんは、変なことばっかりする」。認知症のお年寄りを介護している人は、そんな悩みに直面しがちです。

でも、不可解な言動をみせる認知症の人を注意したり、無理に止めても、本人をイライラさせるばかりで解決には結びつきません。どうすればいいのでしょう?

『認知症の人のイライラが消える接し方』の著者で、プロとして18年間、介護現場で働いてきた植賀寿夫(うえ・かずお)さんが、いい知恵を教えてくれました。

 


「見ている事実が異なる」と考えれば冷静になれる


80歳を越えた認知症のおじいちゃんが、娘を「おかあちゃん」「ねえちゃん」と呼ぶ。また別の認知症のおばあちゃんは、子どもはもう独立しているのに「ご飯つくりに帰る」と言う……。

介護をしている人なら、こんな認知症の症状に驚いた経験が、一度や二度はあるんじゃないでしょうか? こうした症状は、介護者とお年寄りの人間関係をこじれさせます。不可解な言動に対応するとき、僕は一緒に働く職員に、「世界が2つあると考えよう」「その人の世界に合わせよう」と伝えています。

認知症の人に接するとき、介護する人はとかく、〈お年寄りをなんとか誘導しよう〉と考えたり、逆に〈この人は認知症なんだ。私が我慢しなきゃ〉という発想に凝り固まってしまいがちですが、それではいい介護はできないし、長続きしません。

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考え方を変えましょう。まず、「この人は自分とは異なる事実を見ているんだ」と割り切ってみます。そして変に誘導せず、介護者がその事実へと寄せていく。その人の「世界」に僕らがお邪魔させてもらう。そんな感覚を持てるといいかもしれません。

「まず、お年寄りに合わせてみる」それが解決の近道


現役時代は経営者だった、テラダさん(72歳)というおじいちゃんがいます。このおじいちゃんは、ときどき「出勤」するため深夜・早朝に介護施設を出ていこうとすることがありました。この場合、ご本人は「自分がまだ現役で活躍している世界」にいるわけですが、介護する側にとっては悩みの種……。

ある秋の日の早朝4時。テラダさんが施設の廊下を歩いています。今日もまた、「出勤モード」に入っていました。たまたま別の入居者がトイレに行くため、居室から出てきました。それを見ていたテラダさん、その入居者の居室に入ります。そして、開いていた居室の窓から外に出てしまいました。

気づいた介護職が、あわててあとを追います。認知症のお年寄りは、道に迷ってそのまま行方不明になる危険性があるため、放っておけません。

幸い、テラダさんはまだ敷地内にいました。でも外は寒く、風邪をひいてしまいそう。何とか施設に戻ってほしい職員。でも、ここで無理にひきとめると、テラダさんは激怒するでしょう。なだめようといろいろ話しかけますが、足を止めてくれません。〈冗談じゃない。オレは仕事に行くんだ〉、そう顔に書いてあります。

一方の職員は、「出勤」の世界にはいません。〈なんとか怒らせないようにしたい。でも、戻ってほしい〉。二人はグルグルグルグル、施設の敷地を歩き回りました。何週か畑をまわり、あまりの寒さに耐えられなくなった職員。思わずこう口走ったそうです。「寒くない?」。

すると「寒いです」とテラダさん。このとき初めて「寒い」という共通した「世界」に立つことができました。そして「暖かい場所に行きたい」という気持ちになったんでしょう。職員の「暖かい所、行こうやぁ」という声かけでようやく、戻ってもらえたんです。

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こんなふうに、ご本人と介護者の世界が重なれば、ケアはうまくいきます。本人は、自分の「世界」が事実で、現実だと強く思っています。だから、僕ら介護者がそこに合わせることで、かえって丸く収まるというわけです。

これで問題解決! 僕が見つけた「接し方の知恵3つ」


でも、認知症のため、言葉がうまく出ないお年寄りだっています。「どんな世界にいるのか」がわからない場合は、どう接すればいいのでしょう? その答えも僕は、お年寄りから教わりました。僕が学んだのは次の3つです。

① 話の腰を折らない
② お年寄りに同調する
③ その人の「ルール」を探る

極端ですが、言葉が不明瞭で、何もわからない場合を考えてみましょう。そんなとき、

お年寄り「%#&??&」
介護者 「ええと……、何ですか? それは○○ってこと?」

と尋ね返すのは、お年寄りのペースを乱すことになるので、おすすめできません。そんなとき、僕ならまず会話の言葉数を減らします。そして、「はぁはぁ」「うんうん」「そうそう」と、それだけを使って相槌を打ちます。

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わからなくても、決して聞き返しません。ペースを乱さないことだけに集中するんです。
すると、何となく呼吸があってきます。そして相手が話し終わったと感じたら、「何か僕に、できることありますか?」と一言尋ねます。

その際にお年寄りが「ああ、あんたはええ。そのままでええよ」と話を納めてくれる場合は、「じゃあ、何かあったら言ってくださいね」と切り上げて会話を終ります。

もしお年寄りから、何か頼まれた場合はどうしましょう? 応じられることなら、対応すればいいと思います。その場で応じるのが難しいときは、

・「×月〇日ならできるかもしれません」と約束する
・「○○さんに伝えておきますんで」と、権限のある人に伝える旨、約束する

という具合に、その場で無理に解決しないようにするといいでしょう。この対応を、その人その人の行動や思考のパターン(それが「ルール」です)に合わせてできれば、もうバッチリです。

ですが、最後に1つ、大切なことがあります。お年寄りと約束したら、それはできるだけ守りましょう。その場限りのカラ約束をくり返されたら、誰だって傷つきますよね。無理のない範囲でいいので、「できることを約束し、守る」。当たり前のことですが、それだけでお年寄りからの信頼は厚くなり、よりよい人間関係ができていくと思います。

他にもこんなエピソードが!

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『認知症の人のイライラが消える接し方』
植 賀寿夫著 講談社刊/1540円
ISBN 978-4-06-519574-1

お年寄りが落ち着く声かけ・関わり方がわかる!
すぐに怒る、話を聞いてくれない、意味不明なことを言い出す。そんな認知症のお年寄りとどう接すればいいのか? 認知症ケアの本質は「人間関係を整えること」と語る著者が、豊富な事例から対応策を解説します。またお年寄りとの、大変だけど楽しいエピソードをマンガで紹介。介護職はもちろん、認知症のお年寄りを抱える家族も必読の一冊です。

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植 賀寿夫 Kazuo Ue

介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネージャー)。専門学校を卒業後、介護老人保健施設、デイケア、デイサービスなどを経て「みのりグループホーム川内」に管理者として入職、現在は施設長。自らも現場でケアに携わるほか、18年にわたる経験を活かして他施設での職員研修、地域の老人会、学校などで認知症の講座を担当している。


漫画・イラスト/秋田綾子
構成・文/からだとこころ編集チーム

 

第1回「【介護拒否】5時間半ともに歩いてわかった「認知症老人」の本当の気持ち」はこちら>>

第3回「認知症の「帰宅願望」がなくなる最もシンプルな方法」は8月4日公開予定です。