新型コロナ患者に対応する首都圏の病院。写真:ロイター/アフロ

新型コロナウイルスの感染が深刻な状況となっており、医療崩壊を指摘する声を頻繁に耳にするようになりました。一方で日本では医療崩壊などあり得ないといった正反対の意見もあり、多くの人は混乱しているのではないかと思います。現時点で医療体制が逼迫しているのは事実ですが、それを特定の誰かのせいにしたり、そんな事はあり得ないと声高に叫んだところで状況が改善されるわけではありません。まずは事実をしっかりと把握し、全員で対処していく以外、方法はないでしょう。

 

医療崩壊というのはあくまで一般用語ですから、何をもって医療崩壊とするのかという定義を共有しなければ、そもそもの議論がスタートしません。実際、専門家であっても、人によって医療崩壊の定義は異なるようですから、これでは一般人が混乱するのも無理はないでしょう。

医学的に厳密な定義はともかく、多くの一般国民が心配しているのは、コロナに罹患したりコロナ以外の病気やケガといった事態が発生した時に、スムーズに病院にかかれないことです。現時点において、受け入れ先の病院がなかなか見つからず、救急搬送に時間がかかるケースが出てきていますから、多くの国民が心配するのも無理はありません。

この状況について「医療崩壊だ!」「医療崩壊とは呼ばない!」と論争したところでほとんど意味はありません。病院にかかりにくくなっているのは事実であり、心配する人たちに対して「医療崩壊などあり得ない」「不安を煽る発言はケシカラン」などと大声で威圧しても、問題は解決しないどころか、不安心理をさらに増大させるだけでしょう。

安全であることを声高に主張し、他人にそれを暴力的に押しつける人の深層心理には、たいていの場合、恐怖感が存在しています。結局のところ感染に対する恐怖に支配されているのは同じことですから、私たちはその恐怖としっかり対峙する必要があります。感染リスクそのものを排除することはできませんから、客観的な事実を知ること以外に、過度な恐れを抑制する方法はありません。

現時点で救急搬送に遅れが生じるケースはありますが、最終的には収容先の病院が見つかっていますから、まったく医者に診てもらえないというほどの状況とは言えません。今のところは医療崩壊を過度に不安視する必要はないと筆者は考えています。しかしながら、医療体制には物理的な限界がありますから、感染者数が増えれば事態がさらに悪化していくのもまた事実です。

日本の感染者数は年末以降、急激に増加していますが、それでも欧米と比較すると少なく推移しています。それにもかかわらず医療崩壊のリスクが指摘されるのはどうしてなのでしょうか。

 
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