あなたは「多頭飼育崩壊」という言葉をしっていますか?
犬や猫が、何十頭、時には何百頭も室内に押し込められ、いたましい状態でみつかる事件が全国各地で起きています。テレビやインターネットの報道で、目にした読者も多いのではないでしょうか。

このように、動物が繁殖しすぎて世話をしきれなくなる「多頭飼育崩壊」が、いま社会問題になっています。

なぜ多頭飼育崩壊は起きるのでしょう。そして、発見された動物たちはどうなるのでしょうか。

およそ15年間で1000頭もの犬を救い、新しい飼い主へと命をつないできた金本聡子さんを取材したノンフィクション『犬たちよ、今、助けにいくからね』(沢田俊子:文、2021年2月 講談社刊)より、多頭飼育崩壊の現実をお伝えします。

金本聡子さん(NPO法人LEY-LINE代表)。子育てをしながら犬の保護活動を続けている。


多頭飼育崩壊の原因って?


多頭飼育崩壊の原因はさまざまです。
ペットへの避妊手術など、適正な処置をしなかったため過剰繁殖が起きたり、飼い主の病気や高齢化、思わぬ事故や災害などでペットが放置された末に起きる場合もあります。

また、繁殖業者(ブリーダー)の経営が行き詰まり、飼育が崩壊するケースもあります。生活費やエサ代を稼ぐため他の仕事につかねばならず、結果的に動物の世話ができなくなる……という状況に陥っている業者もいるのです。

 


地獄のような救出現場


金本さんが救助活動に参加した、三重県のボルゾイ(ロシア原産の大型犬)繁殖場は地獄のような状態でした。(2014年)

無数のハエが飛び交う室内は、糞尿にまみれ、激しい悪臭が立ち込めています。床の上では、排泄物の上にかぶせた新聞紙が層をなし、1メートルもの山になっていました。

ケージにとじこめられたままの老犬たち(『犬たちよ、今、助けに行くからね』より)

金本さんをはじめ複数の保護団体が現場にかけつけましたが、おびえきった犬たちの救助活動は困難を極めました。

糞尿の中で吠え、噛みつき、逃げ回る犬たちを、金本さんたち自身も汚物まみれになりながら、辛抱強く救出するのです。その日、夜までかかって保護したボルゾイは45頭もいました。

建物の奥に逃げ込んだボルゾイ(『犬たちよ、今、助けに行くからね』より)

金本さんはこのうち11頭のボルゾイを預かり、10頭に新しい飼い主を見つけました。しかし重病の1頭だけは、金本さんが引きとりました。その「マキ」という犬の余命が、わずかだとわかったときの事です。

飼い主だった業者へ連絡を入れると、なんと、夜勤明けで駆け付けてくれました。そして、やってきた男性が名前を呼ぶとマキは足元へにじりより、頭をくっつけ安心したように眠りについたのです。男性の話によると、マキは繁殖場のボス犬だったそうです。

犬と業者の信頼関係を目にして、〔劣悪な環境から犬を救い出した〕と満足していたのは、自分の傲慢だったのでは……と金本さんは思いました。けれども男性は「今、こんなことを言うのは恥ずかしいですが、いつか、あなたのお手伝いがしたい」と告げて帰っていったのでした。

ボス犬マキは、飼い主だった男性をそんな気持ちにさせ、保護活動に迷いを感じた金本さんに自信を持たせて旅立ちました。立派な最期でした。


母犬を救いたいーーパピーミル(子犬製造工場)の実態


犬の繁殖場が、パピーミル(子犬生産工場)とも呼ばれているのを知っていますか?

繁殖場には、販売用の子犬を産むためだけに飼育されている、繁殖犬(母犬)がいます。金本さんは保健センター以外の場で、殺処分される犬たちを救う活動をしていますが、特に、度重なる出産で体が弱った母犬を救いたいと願っています。

これまでに、金本さんが保護した母犬の中には、帝王切開を何回もうけた傷跡がある犬や、出産の繰り返しでカルシウム不足となり、歯がボロボロになった犬もいました。

弱った母犬を殺処分前に救うため、繁殖場に何度も通い業者と交渉している金本さんですが、うまくいかないケースもあります。体力のない老犬に、「まだ産ませる」と言い張る業者のもとで、高齢出産により死亡する母犬もいました。


コロナ禍の中で


保護した犬たちは、ワクチン接種や避妊処置、けがや病気の治療をうけさせます。その後、約30人いる「預かりボランティアさん」のもとで心身の健康をとりもどしてから、譲渡会などで新しい飼い主を探します。しかし昨年からは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、譲渡会を開けなくなってしまいました。

金本さんが代表をつとめるNPO法人LEY-LINEのメンバーたちも、このままでは保護犬がどんどん増えてしまうのでは……と心配していました。しかし幸いにも、口コミやインターネット経由での引き取り申し込みがあり、現在は事なきをえています。

ところが一方で、世間では別の問題も起きはじめています。ステイホームの影響か、安易に犬を飼う人が増え始めたのです。

犬を飼ってはみたものの、世話ができず、「あきた」「におう」「トイレの世話がいや」などの理由で、保健センターに連れてくる人もいます。
『犬たちよ、今、助けにいくからね』のあとがきでは、「あなたは、毎日犬を散歩につれていけますか?」という金本さんのメッセージが紹介されています。

犬の平均寿命は(犬種にもよりますが)14年ほど。長生きなら、20年生きる場合もあるでしょう。その長い期間、毎日散歩に連れて行ける人が、犬を飼う資格がある人だ、と金本さんは思っているのです。

ペットは、生活をともにするパートナーとして、家族として、人間の心を癒してくれる存在です。だからこそ、一緒にすごす毎日を、大切にできる人に飼ってほしいーー。
金本さんの活動と、保護された犬たちのその後を追った本書は、読者にそう訴えかける一冊です。


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『犬たちよ、今、助けに行くからね』(講談社)沢田俊子:文

助けを待つ犬は、どこにいるの? どうやって助けているの?
【多頭飼育崩壊】や【虐待】。今、犬たちになにが起こっているの?
およそ15年間で1000頭もの犬を救い、新しい飼い主へと命をつないできた金本聡子さんを、『盲導犬不合格物語』『犬の車いす物語』など、児童向けの動物ノンフィクション作品を手がけてきた児童文学作家・沢田俊子さんが取材。
犬たちの置かれている状況と、保護活動のリアルを伝える一冊です。
(対象:小学生〜大人まで)


構成/北澤智子

この記事は日本のペット「多頭飼育崩壊」のヤバすぎる実態…保護された犬たちの「その後」をもとに構成しました