過度な競争社会として知られる韓国で、ここ数年ブームとなっているのが「癒やし」。その一環として心理学や脳科学への関心が高まり、書店でも大ヒットを記録しています。中でも特に関心を集める「マインドフルネス」のジャンルで、大ベストセラーとなっているのが『ほっといて欲しいけど、ひとりはいや。寂しくなくて疲れない、あなたと私の適当に近い距離』。
その理由を「これまでの“全部大丈夫”という漠然とした慰めに嫌気がさした人々が、もっと科学的で明瞭な解決方法をさがそうとしているのだと思います」と語るのは、イラストレーターで元美術療法士の著者ダンシングスネイルさん。
「のんびり屋で感じやすく、心の傷を引きずりがちで、他者と一定の距離を取りたい性格」という彼女。そんな中で、難しかったのは家族との関係だったと言います。
ダンシングスネイル
イラストレーター、イラストエッセイ作家。ソウルの弘益大学でデジタルメディアデザインを学んだが、長い苦悩の末にデザイナー体質でないことを確信し、その後、絵と心の相関関係に興味を持ち、明知大学未来教育院の美術心理カウンセラー課程を修了した。カウンセリングセンターで美術療法士として働くうちに、まずは自分のケアからしなければならないことに気づき、再び絵を描き始めた。著書に長年の無気力症克服の記録を綴った『怠けてるのではなく、充電中です。』(CCCメディアハウス)があり、『死にたいけどトッポッキは食べたい』(ペク・セヒ著、山口ミル訳、光文社)、『ねこの心辞典』(未邦訳)など多数の本のイラストを描いた。
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ストレスを溜めない人との“適当な”距離の持ち方。孤立せずにひとりを楽しむには?>>
ダンシングスネイルさんの本は、イラストはふんわりと和む印象ですが、文章はすごく明晰ですね。
大学などでは絵を専攻していて、文章を学んだことがありません。だからこんな風に文章が書けることは自分でも不思議です。
他の作家の方から「どうしてこんなにはっきりと、自分の主張を書けるのか」と聞かれることがあるんですが、 そうなってしまうのは、きっと私がちょっと子供っぽい、分別のないタイプだからかもしれません。大人になっていれば、言葉を選んだり、周りの人の意見を聞いたりするものですよね。自己愛的とも言えるかもしれません。そういうふうに「自分は正しい」という確信があるからこそ、文章が書けるというのもありますよね。
でも本を書くには役立つそういう部分は、日常生活においては少しやっかいです。生活の中では、他者の意見を聞く必要もありますから。
そうした性格から、何か大きな失敗をしてしまった経験があるんですか?
見知らぬ人の多い集団の中では、何も言えないんです。むしろ、そうやって外で溜まった鬱憤を、家族や恋人など近しい人に爆発させてしまう、やんわりと伝えることができないんですよね。そういったことですよね。
人間関係において、私が最も苦しんだのが家族です。『ほっといて欲しいけど、ひとりはいや。』の前に出版した無気力症についての本(『怠けてるのではなく、充電中です。』)に書いたのですが、両親の世代は私が無気力になってしまうことが理解できません。すごい経済成長の中で、みんな頑張って働いてきた世代なので、家で一人縮こまってじっとしているのは、怠けているようにしか見えないんです。
コロナ禍においては、どうしても家族と一緒に過ごす時間が長くなります。
個人同士の情緒的距離に対する考えが世代間で異なることは、特に苦労する部分ですよね。両親はよかれと思って言うことが、子どもにとっては過度な干渉(余計なおせっかい)になる場合が多いですから。もちろん、最も簡単な解決策は物理的な距離をおくことですが、コロナ禍の今は、各自がある程度の独立した空間を持てるよう、家具の配置やインテリアを変えるなどの工夫を優先することだと思います。また一人の時間がどれほど必要かという点も個人差がありますよね。ですから、たとえば「私は夕食後に1時間くらい自分だけの時間を過ごさないと休まらないの」と前もって家族に話しておくことで、誤解が生じずに済むと思います。
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