日本には古くから「玉の輿」という言葉があります。家柄や名声、経済力のある男性と結婚することで、女性も裕福になることを指しますが、それは果たして本当に幸せなのでしょうか? 実際のところ、自分が生まれ育ってきた間につちかわれた価値観と全く異なる世界に飛び込むのは、相当な負担のようにも思えます。KISSで連載中の「やんごとなき一族」の主人公・佐都(さと)もその一人。一筋縄ではいかない上流階級の世界で、どう幸せをつかみ取ることができるのか? 昼ドラのような展開が繰り広げられています。

やんごとなき一族』(1) こやま ゆかり (著)

とある商店街にある大衆食堂の一人娘・佐都。父が他界し、母と二人で店を切り盛りしています。店の名物はどて焼き。小さい店ですが、常連たちに愛され、誇りを持って続けてきました。恋人の健太も、店のどて焼きが大好き。とうとうプロポーズされ、幸せの絶頂にありました。健太の実家は芦屋の旧家であるため、佐都との結婚を反対されたものの、健太が「本人に会ってくれたら絶対いい子だってわかるから!」と説得し、二人で挨拶に行くことに。

 

健太の実家に挨拶に行く日、母は作りたてのどて焼きを手土産にもたせてくれました。健太と芦屋駅からタクシーで実家に向かうのですが、車窓から見えるのは、居並ぶ高級車に巨大な邸宅という、まるで映画のセットのような超高級住宅街。健太の実家は、中でもひときわ立派なものでした。

 

健太がインターホンを鳴らして出てきたのは、健太の母・久美。挨拶しようとする佐都の言葉を遮り、「あなたたち、帰ったほうがいいわ」と忠告します。その時、インターホン越しに健太の父・圭一が、久美に指示をして、健太の腕を引っ張らせて敷地の内側に。その瞬間、門扉が閉まり、佐都は締め出されてしまいます。圭一が佐都を家に呼んだのは、拒絶していることを目の前で思い知らせるためだったのです。圭一、底意地が悪すぎる。でも、これは序の口で、これから先。これでもか、というくらいいろんなことを巻き起こすのですが……。

 

父亡き後、母と一緒になって懸命に生きてきた佐都は、富や学歴はなくても、人から蔑まれる憶えはありません。健太のことは好きだし、佐都のことを大事に思ってくれているものの、このまま結婚していいのか、悩み苦しみます。一方、実家に残った健太は、圭一に怒鳴り込みにいきます。興信所を使って佐都を調べあげていた圭一は、父の治療費と、自分の短大の奨学金を返済するために働き続けている佐都を深山家に入れるなんてありえない。そんなに好きなら“2号”にして手元に置けばいい、と言い放ちます。妹や親族も一緒になって、佐都のような“庶民の女”がこの家に入ることを毛嫌いします。健太はブチ切れますが、もっともです。

 

健太は深山家の当主として、地位と権力を笠に着て偉そうに振る舞い、気に食わないことがあるとすぐ母に暴力を振るう圭一が嫌で学生時代に家を飛び出し、就職も自分で決めて自活してきましたが、この一件で、実家と完全に縁を切ることを決意。一方、圭一の策略はまだ続きます。次は自ら佐都のもとを訪れ、小切手を渡して健太と縁を切らせようとします。健太は次男ですが、長男が頼りなく、ゆくゆくは健太にすべてを任せたいと思っているため、ここで“庶民の女”を嫁にするわけにはいかない、というのです。

 

佐都にもプライドはあります。小切手を突き返し、健太との別れを決めます。そのことを健太に告げますが、健太は別れたくないと言います。しかし、一緒になることで佐都を苦しめることになるため、一旦は別れを受け入れようとしますが、二人のお互いを想う気持ちは固く、婚姻届を提出。この先、二人はどうなっていくのでしょうか?

 

と、ここまでが第一話のお話。初回だけでどれだけ濃い展開なんだ! 圭一は健太を跡継ぎにすることは全く諦めておらず、婚姻届を提出して妻となったにも関わらず、佐都をなんとかして排除しようと企みます。健太は、上辺だけは上品そうに振る舞っているものの、見栄ばかりで足を引っ張り合う深山家の人々に嫌気が差し、一旦は飛び出したものの、佐都と一緒に内側から腐り切った深山家を変えていく決意をします。そのためにも、佐都も上流階級の世界に必要な教養などを学び始めることに。こうして佐都は、今まで生きてきた環境とはまるで違う世界に飛び込むことになりますが、持ち前の明るさと素直さ、物怖じしない性格を武器に、そして健太の愛を支えに突き進んでいきます。

豪邸にお手伝いさんがいて、運転手付き高級車があるのは当たり前。百貨店に行くとVIP待遇、クルーザーでのパーティーも日常に過ぎない生活に、読み手も佐都と一緒にあっけに取られてしまいます。実際の日本の上流階級がどうなのかは知るよしもありませんが、漫画を通してこうした世界を垣間見るのは楽しいですし、その世界の住民がそれぞれの思惑を抱えつつ、あの手この手で自分を有利な立場に持っていこうとする姿も見ものです。上流階級のドロドロは、昼ドラや韓流ドラマでは定番ものですが、なぜ定番かというとやはり面白いからだし、お高く振る舞っている人々の裏側を知りたい! という好奇心を満たしてくれるから。作者のこやまゆかりさんは、ドラマ化された「バラ色の聖戦」、「ホリデイラブ 〜夫婦間恋愛〜」(原作)など、等身大の女性が逆境にも負けず、自分で自分の人生を切り開いていく物語には定評あり。「やんごとなき一族」も、これでもかの泥沼劇ではありますが、逆境にも機転を利かせて切り抜ける佐都と、あの曲者揃いの深山家からよくぞ健全に育った! と思わずにはいられない健太の二人を応援しつつ、元気をもらえます。

やんごとなき一族』(8)  こやま ゆかり (著)

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『やんごとなき一族』
こやまゆかり 講談社

佐都は恋人の健太からプロポーズされる。健太は芦屋の富豪・深山家の次男なのだが、庶民的な健太に親近感を持っていた。しかし健太に連れられていった深見家は佐都の想像を絶する大邸宅だった。厳格な父・圭一により佐都は門前払いにあう。二人は駆け落ち同然で入籍、圭一はある策略を思いつき二人の結婚を認める。一族の真実の姿とは──?