他人に不満を感じるのは甘えでしかない

 

厚意を前面に出す行為が相手にストレスを与えるとしたら、他人にどう接するのがよいのでしょう? 著者は良好な人間関係を築くコツをこのように示唆しています。

 

人と人は理解しあえない。それを基本として考えるべきなのだ。理解しあえると思うから、『あの人は私のことをわかってくれない』と思って、不満に感じる。理解しあえるはずがないと思っていれば、そんな不満を持たない。そもそも、『あの人は私のことをわかってくれない』と考えること自体、甘えでしかない。わかってくれるはずのない相手に対して過度に期待しているにすぎない。お互いわかりあえるには、同じような価値観を持っていなければならない。他人と自分がつながっているとみなすことだ。だから、わかってくれないと考えてしまう。人それぞれ、別の価値観を持っていて当然とみなされている社会で、理解しあうことなどできるはずがない。理解しあえずに、衝突が起こったり、互いに嫌いになったりして当然なのだ。社会とはそんなものなのだ」

自分は自分、他人は他人──そういう割り切った考えが浸透した社会の理想的な姿を、著者は「嫌い」を軸にして説明しています。

「『嫌い』というのも大事な人間の感情であり、そこから人間が築かれている以上、その感情も復権するべきであり、解放するべきなのだ。
そこで私の求めるのは、『嫌い』が排除にならない社会なのだ。みんなが自分の『好き』と『嫌い』を大事にし、他人が自分の好きなものを嫌ったところでそれを許容する社会だ。
じつはそれこそが、深い意味で多様性を認める社会だろう」
 

著者プロフィール
樋口裕一さん:
1951年、大分県に生まれる。早稲田大学第一文学部卒業後、立教大学大学院博士課程満期退学。フランス文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、受験小論文指導の第一人者として活躍。多摩大学名誉教授。通信添削による作文・小論文の専門塾「白藍塾」塾長。MJ日本語教育学院学院長。著書には250万部の大ベストセラーとなった『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)をはじめ、『65歳 何もしない勇気』(幻冬舎)、『「頭がいい」の正体は読解力』(幻冬舎新書)、『65歳から頭がよくなる言葉習慣』(さくら舎)などがある。

 

『「嫌い」の感情が人を成長させる ─考える力・感じる力・選ぶ力を身につける』
著者:樋口裕一 さくら舎 1400円(税別)

「好き」があふれ、「嫌い」を口にするのはよくないという雰囲気が蔓延している日本社会に異を唱え、風通しのいい社会の実現を訴える生き方エッセイ。「排除にならない上手な嫌い方」や「上手な悪口のいい方」など実生活でも使える知恵が満載で、著者の小気味よい辛口な論調と共に楽しむことができるでしょう。「みんな仲良し」社会に居心地の悪さを感じている現代人の心を解放する、痛快な一冊です!


構成/さくま健太
この記事は2021年3月28日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。