20代でHBOCと判明。予防切除を決断した女性の話


当クリニックの患者さんにも、30歳前にHBOCと診断された方がいました。若年性乳がんでしたので、片方の乳房を手術した際、手術を受けた病院で遺伝子検査も行ったのです。がんが多い家系ではなかったものの、BRCA遺伝子に変異が認められたため、彼女はもうひとつの乳房を切除することを選択しました。今後、卵巣・卵管も予防切除するか、遺伝外来の先生と相談して選択することになると思います。まだまだこれからという年齢ですから、想像を絶するつらい決断だったはずです。

 

遺伝子検査は、患者さん本人はもちろん、身内の精神的な負担も大きい検査です。遺伝子カウンセラーの資格を持つ専門医がカウンセリングを行いますが、若い方であれば、子どもを産むか、産まないかなども当然聞かれます。そうした娘さんのお母さんにとっては、「遺伝子に変異が見つかれば、娘の婚期が遅れてしまうかもしれない」「親戚からも文句を言われるかもしれない」など、現実に絡むネガティブな問題も発生します。「それでも本当に調べますか?」と確認に確認を重ね、同意を得られた場合のみ検査することになります。この遺伝子検査の結果次第では、乳房や卵巣を予防切除するかどうか、という極めて重要な分岐点に立たされるわけですから、患者さん、家族、パートナー、関わる誰もが非常に難しい決断を下していくことになります。

 

もちろん、検査結果がHBOC陽性だからといって、予防切除手術をすることが絶対的に正しいわけではありません。先ほどお話しした若くしてHBOCと診断された女性は、直接お話を伺った訳ではありませんが、たくさんのカウンセリングを受け、熟考した末に“予防切除する人生”を自ら選んだということだと思います。もっと安易な選択もできたはずですが、冷静にご自分の将来を考えて正しい選択をしたこの患者さんは、本当にえらいと思います。

緒方晴樹 Haruki Ogata

目白乳腺クリニック院長。日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。20年以上にわたり乳腺外科を専門とする。東京逓信病院では乳腺センター立ち上げに尽力、センター長として多くの乳がん患者の治療にあたった。2019年2月、女性が気軽に受診できる「乳がん検診・治療・フォローアップ専門クリニック」として、目白乳腺クリニックを開院。


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全10回】
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