日本ではワクチン接種が進まないことから、コロナ終息はまだ先のことですが、コロナが早く終わって欲しいと思う反面、コロナ前の生活には戻りたくないと考える人も増えているようです。筆者はこうした感覚については、むしろ歓迎すべきことだと思っています。その理由は、社会がコロナをきっかけに新しい方向に急速に舵を切っているからです。
博報堂生活総合研究所の調査によると、コロナが終息しても現在の生活を維持したいと考える人の割合は56.3%と過半数に達していました。現在の生活を維持したいと考える理由のトップは「時間の無駄削減や自己管理ができるから」というものでした。
コロナ危機下での生活で気付いたこととしては「風邪にかかりにくくなった」「家族と過ごすことが楽しくなった」「対面で会う時は、その時間を大切にするようになった」といった項目が並んでいます。
元の会社生活に戻りたいと考える人がいる反面、コロナ危機が終われば、満員電車に揺られて、長時間残業をするのかと考えると憂鬱になる人も少なくないようです。一部からは、こうした感覚について、従来の日常生活に戻れなくなるので、良くないことだと指摘する意見も出ているようですが、筆者はそうは思いません。
近年、ITの高度な発達によってビジネス環境が激変しており、コロナ危機はその変化をさらに後押ししている可能性があります。コロナ後には、従来とはまったく違ったビジネス常識が定着する可能性が高く、むしろ、私たちはそちらに合わせた方が、より豊かになれるからです。
IT化には様々な側面がありますが、もっとも顕著な効果の一つは劇的なコスト削減です。
例えばホテルのような宿泊施設を例に取ってみましょう。従来社会では、宿泊ビジネスを運営するためには、最初に巨額のコストをかけてホテルや旅館を建設しなければなりません。ところがエアビー(Airbnb)のようなサービスでは、すでに存在している民家がホテル代わりになるだけですから初期投資はほとんど必要ありません。社会全体で見ると、IT時代というのは、とてつもないコスト削減効果をもたらすのです(経済学の用語を用いて説明すると、高度IT化社会では限界コストが限りなくゼロとなります)。
この効果は会議や商談などにもあてはまります。コロナ危機がきっかけとはいえ、各社はリモートワークやリモート営業などを行うようになりましたが、実はリモートによるコスト削減効果は絶大です。実際に、人が移動して相手を訪問するやり方と比較すると、Zoomでの商談にかかるコストは数分の1以下でしょう。
会議についても、社員の人件費やその間に失う外部の機会損失などを考えると、リモートで済ませた方が圧倒的に効率的です。実際、ある営業系の会社ではコロナ危機をきっかけに、すべてを遠隔営業に切り換えたそうですが、売上高はほとんど変わらなかったそうです。
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