昨年は映画『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀女優賞を受賞したシム・ウンギョンさん。「生まれてはじめて」司会を努める今年の日本アカデミー賞では、「司会をご一緒する羽鳥慎一さんの話すスピードが、思っていたより、早かったので、もっと頑張らないと!と思いました」と笑顔で語ります。映画に、連続ドラマに、舞台にと、この1年あまりの日本の活動は、その合間に韓国で連続ドラマを撮影していたとは信じられない活躍ぶり。1年かけて撮影した映画最新作『椿の庭』は、その間の成長をそのままフィルムに焼き付けたような作品です。

 


初めての日本の撮影現場。
慣れていないこともあってプレッシャーもあった


日本でもすでに『新聞記者』『ブルーアワーにぶっ飛ばす』の2本の主演映画が公開されているシム・ウンギョンさん。ある古い日本家屋を舞台に、祖母と孫娘の交流を描く『椿の庭』はそんな彼女が、日本ではじめて撮影に臨んだ主演作。彼女が演じるのは、韓国に生まれアメリカで育った主人公・渚。両親を失い、富司純子さん演じる母方の祖母・絹子を頼って日本にやってきます。

 

シム・ウンギョンさん(以下、シム):初めての日本の現場で慣れていないことばかりでしたし、監督は世界的なアーティストである写真家・上田義彦さんで、プレッシャーはありました。作品で演じた渚は、祖母の住む日本に一人でやってきたという役。日本語もそれほどうまく話せず、初対面の祖母との距離もあり、「どういたらいいのか」と思っているーーそういう状況は自分と重なるところもありました。上田監督からも「渚のあり方やピュアさはウンギョンさんと似ているから、特に演じずにそのままいるだけでいい」と言っていただいたので、芝居なのかドキュメンタリーなのか、不思議なものが見えたらいいなと考えながら演じました。

映画『椿の庭』より。©2020“A Garden of Camellias” film partners

そんな中、初日からリラックスして撮影に臨めたのは、上田監督が演技ができるまでゆっくり時間をかけてくれたから。そして、舞台となった家屋に、ゆったりとした空気があったから。タイトル通りの椿の庭に始まり、水草が浮かぶ池に泳ぐ金魚、古いレコードプレイヤー、玄関を縁取る松葉、庭を透けて見せる夏用の簾戸……日本家屋独特の陰影によって際立つその佇まいは、どこを切り取っても美しい影像を作り上げています。

映画『椿の庭』より。©2020“A Garden of Camellias” film partners

シム:お庭がとても素敵でした。お家は少し小高い場所にあって日当たりも良く、椰子の木と遠くに海が見えるんです。夏は東南アジアみたいな雰囲気が感じられます。それが冬になると、ヨーロッパみたいな雰囲気に変わるんですよね。お家自体はすごく和の雰囲気なんですが、凄く細かい意匠が施されていて。トイレとかは西洋のホテルみたい。ダイニングも洋風で、畳の上にソファーを置いたりしているのも印象的でした。今回、デジタルではなくフィルムでの撮影で、ほとんどが自然光での撮影だったんです。陰や暗さがあってすごく新鮮な感じがありました。

ぼーっと見る演技のつもりが
手が震えるほどボロボロに泣いてしまった


人物造形の繊細さもまた、日本らしい陰影が現れます。冒頭の夫の死から、祖母・絹子の中で密かに少しずつ、でも強く固まっていくある決意。日本語がまだ不得手な渚は、小さな出来事の積み重ねによって、その祖母の決意を感じ取ってゆきーーでもそれを互いに言葉で確認し合うことはしません。

 
 

シム:渚が基本的に物静かなキャラクターだというのもありますが、繊細な表現というのは今回の宿題でもありました。絹子さんと渚は、表面的には普通にやり取りしながら、お互いの心のなかにある「含み」に気づいている、ところがあるんですよね。その一方で、自分の内面から出てくる感情が抑えきれなくなってしまったシーンもありました。映画の終盤にある場面なのですが、演じる前は「目の前で起こっていることをぼーっと見ているような演技」をイメージしていたのですが、いざ演じてみたら、ボロボロと泣いてしまい、手さえも震えてきてしまって。あんなふうになったのは、私の演技経験の中でも初めてで。これまでの作品では、いつも本当に戦いだったんですーー演じるキャラクターとの、そして自分自身との。いつも「どういうふうに演じたらいいのか」といつも悩んでばかりで。でもこの作品では、すごく自然に演じることができました。

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