毎週月曜日の正午に公開している連載「月曜日は週1ヴィーガンの日」。今回はそのスペシャル企画として、会員数30万人強を誇る食品宅配業者の最大手、オイシックス・ラ・大地(株)代表取締役社長の髙島宏平さんをゲストにお迎えしました。

Oisixといえば、有機野菜をはじめとする安心安全な食材を扱っているサービスとして、すでに広く知られている存在。さらに近年は、杉山さんがレシピを提供したヴィーガンミールキットの発売や、会社をあげてのフードロス削減への取り組みなど、人の健康や環境に対する意識の高い企業としてもますます注目を集めています。そんなオイシックス・ラ・大地を牽引する髙島さんに、実は長年のご友人でいらっしゃるという杉山さんがインタビュー。Oisixがヴィーガンミールキットを発売することになった経緯や、いま世界で問題になっているフードロスのこと、また髙島さんの今後のビジョンなどについてお話を伺います。

 


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2人の再会が人気レシピ誕生のきっかけに


杉山さん(以下、敬称略):髙島さんと知り合ってから、もう20年以上になるでしょうか。もともと共通の知人が何人もいたというご縁から紹介を受け、当時よく我が家で開いていたホームパーティーに来ていただくようになって。その頃はまだ誰もが『ネットスーパーって何?』というような時代でしたが、髙島さんがちょうどOisixの事業を立ち上げられるというタイミングでもあったので、毎回お野菜や食材をたくさん持ってきてくださっていたんですよね。私がそれを使ってお料理をして、集まった友人たちと試食をするという楽しい会でした。

髙島さん(以下、敬称略):そのホームパーティーの事前準備のために、いつも絵美ちゃんと2時間くらいかけて真剣に打ち合わせをしていましたよね。あれはまさに仕事のようでした(笑)。

「余った食材、全部送ってください」会員30万人Oisix社長が本気で目指す「食品廃棄率0%」_img0

髙島宏平さん オイシックス・ラ・大地株式会社代表取締役社長。1973年8月15日生まれ。神奈川県出身。東京大学大学院工学系研究科を修了後、外資系コンサルティング会社のマッキンゼーに入社。2000年に退職し、6 月にオイシックス株式会社を当時の仲間と設立。2017年に「大地を守る会」、2018年に「らでぃっしゅぼーや」との経営統合を果たす。企業経営を行うかたわら社会貢献活動にも積極的に取り組み、2007年にNPO法人「TABLE FOR TWO International」の理事に就任。2011年3月の大震災後には、被害を受けた東日本食品産業の長期的支援を目的とする一般社団法人「東の食の会」の発起人・代表理事となる。越後妻有を魅力ある地域にしていくことを目的としたNPO法人「越後妻有里山協働機構」の副理事をはじめ、買い物難民向けの移動スーパー「株式会社とくし丸」の代表取締役会長、公益社団法人経済同友会 副代表幹事、一般社団法人日本車いすラグビー連盟理事長などを兼任。

 


杉山そうでしたね、懐かしい(笑)。それから時は流れて、しばらくご無沙汰していた後の2019年の秋に、とあるパーティーで再会したんですよね。そこで、当時の懐かしい昔話に始まり、私がマリ・クレールのサイトでレシピの連載をしていることなどを話していました。そうしたら、Oisixでミールキットの販売を始めた時期だったということもあって、髙島さんが『絵美ちゃんもレシピを提案してみない?』と誘ってくださって。私はOisixの創業当時からお客の一人で大ファンでしたし、いつかお仕事ができたらいいなとずっと思っていたので、『もちろん!』と二つ返事でOKさせていただきました。それで、昨年の6月に第一弾のレシピを監修させていただくことに。その時にご提案させていただいたのは、新ジャガイモとアスパラガスを使ったサラダキットでした。

髙島:おかげさまで、かなり反響がありました。

「余った食材、全部送ってください」会員30万人Oisix社長が本気で目指す「食品廃棄率0%」_img1
 

杉山絵美さん  料理家。ライフスタイルナビゲーター。芸術家の家系に生まれ、慶應義塾大学文学部卒業を経てイギリス留学後はクリスチャン ディオールの広報として勤務。2005年に独立し、ラグジュアリーブランドを扱うP RエージェンシーSTEP inc.を設立。ファッション、アート、グルメ、旅、ライフスタイルのPRを手がける。また、料理好きがこうじて、世界中を食べ歩いて研究したレシピをもとに料理教室を開催。ファッション誌やグルメサイトなとで料理家としても活躍中。2020年フードロス問題に取り組んでいく新会社FOOD LOSS BANKを日本ガストロミー学会会長とともに設立。
Instagramアカウント:@emisugiyama530
YouTubeアカウント:Emi Sugiyama


杉山ありがたいことに、発売から2日で売り切れてしまったんですよね。購入できなかったというお客様には申し訳なかったのですが、ほっとしたのも事実。私も参加したいと手を挙げた以上、もし売れなかったら御社にご迷惑をかけることになってしまいますから。それはもう真剣にレシピを作成させていただいたという甲斐がありました(笑)。

髙島:絵美ちゃんには、以前からOisixのヴィーガンミールキットを気に入っていただいていたんですよね。

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20分で主菜と副菜ができるのがOisixのミールキット。肉・魚・乳製品を使用しないヴィーガンミールキットも好評。

杉山ええ、ヴィーガンミールキットが新発売になった頃からすべて試しています。Oisixのミールキットは、美味しいのはもちろん、使い勝手のよさが魅力ですね。というのも、普段自宅でよくお料理をしているんですが、我が家は夫と2人なのについ量を作りすぎてしまったり、お野菜を丸ごと買うとなかなか一度では使い切れずに何日か同じ食材が続いてしまったりすることがあって。その点、Oisixのミールキットには、材料を余すことなく使い切れるような分量が入っているので全く無駄がないんですよね。アメリカでヴィーガン食のミールキットを宅配するブランド、“パープルキャロット”のヴィーガンミールキットが登場した時にも、速攻で注文しましたよ。

髙島:最初に販売したメニューはビビンバでしたよね。

杉山そうそう。自分ではビビンバはあまり作らないうえに、動物性食品を一切使わないヴィーガン仕様だというのにとても興味を惹かれました。実際、食べやすくてとても美味しかったです。いまだに人気メニューのひとつですよね。それからしばらくして、私もパープルキャロットとのコラボレーション企画として、ヴィーガンミールキットに携わらせていただくことに。その時は、アーモンドミルクを使用した、きのこたっぷりトマトクリームシチューを提案させていただきました。

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杉山絵美さんがオイシックスで監修したヴィーガンキットは「トマトクリームシチュー」。


ところで、そもそも髙島さんがヴィーガンミールキットを販売しようと思われたきっかけは、どんなことだったんでしょう?


アメリカでは“パートタイムヴィーガン”のマーケットが拡大中


髙島:先の話にも出ましたが、“パープルキャロット”というアメリカ・ボストンに拠点を置くヴィーガン食のミールキットを宅配する会社を、我が社が買収したことがきっかけです。といっても、もとはヴィーガン食に特化した会社を探していたわけではなかったんです。私たちの事業を海外に広げるにあたり、何か企業文化的に近い指向を持つ会社があれば提携したいと思っていたところに出会ったのが、たまたまパープルキャロットだったということです。

ただ、彼らと話をしていてとても面白いと思ったのがお客様の傾向でした。パープルキャロットのユーザーの2割は“フルタイムヴィーガン”=完全なヴィーガンなのですが、8割は“パートタイムヴィーガン”、つまりノンヴィーガンだというのです。だから、お客様は『今日はステーキを食べるけれど、明日はヴィーガンメニューにしよう』という人が大半を占めていて、ヴィーガンミールキットを日々の食事の中で臨機応変に取り入れているのだと。そして、今アメリカでヴィーガンマーケットがどんどん拡大しているという背景には、フルタイムヴィーガンだけでなく、そうしたパートタイムヴィーガンの人たちが増えているという現状が確かにあるということを知ったのです。

それに、彼らのいう“パートタイムヴィーガン”というコンセプトは、日本でもなじみやすそうだなとも思いました。というのも、これまでベジタリアンやヴィーガンというと、どうしても肉が好きな人に罪悪感を持たせてしまうというか、排他的なイメージになってしまいがちだったんですよね。でもアメリカのように、肉が好きな人でも取り入れられるような仕組みにすれば、そういう食のスタイルも広がりやすいだろうなと思ったわけです。

杉山確かに厳格なヴィーガンというと、自分にはハードルが高いと思ってしまう人が多いですよね。「パートタイムヴィー ガン」という言い方がとてもわかりやすいと思います。アメリカのお客様のように柔軟な食のスタイルなら、誰でも気軽にトライできるので私の提案したいコンセプトとぴったりです。実際、このパープルキャロットのヴィーガンミールキットは、日本人向けにアレンジされているので、より口に合って美味しいですしね

髙島:ええ。アメリカと日本では手に入る食材は違いますし、人種によって味の好みも違います。ですから、パープルキャロットが重視している視覚的な華やかさやサプライズ感は大切にしながら、日本で手に入る食材と日本人が好きな味付けでレシピを作るように工夫しています。

杉山アメリカのように、日本でも気軽に取り入れる人がこれから増えていきそうなヴィーガンという食のスタイル。髙島さんは、企業として提案するメリットをどのようにお考えですか?

髙島:とくにパープルキャロットのスタッフは、ヴィーガン食を取り入れる人や食数を少しでも増やした方がいい未来になると信じながら、情熱をもって仕事をしています。その理由は大きく分けて3つあり、まず一つ目は健康のため。そして二つ目が動物愛護、三つ目が地球環境のためです。とくに三つ目に関していうと、いま世界中で排出されているCo2=二酸化炭素のうち25%が農業由来のものなんですが、さらにそのうちの大半が畜産業からのものだということ。ですから、みんなが肉食を1度でも減らしてそれをヴィーガン食に置き換えると、それにより排出される二酸化炭素の量が減るので、いい地球の未来につながるのだという考え方なのです。

日本ではそういう思いを持ちながらも、やはり身体の調子がよくなるのが嬉しいというお客様の声が多いですね。また、身体や環境に何かいいことをしているという意識があるせいか、『心の具合のよさ』を感じるという声も。そんな風に、メリットはいろいろとあるように思いますが、こちらからの押し付けではなく皆さんがそれぞれに感じていただけるといいのかなと。

杉山なるほど。私も“週1ヴィーガン”を続けていて、確かに体調がいいことを実感しています。それから環境といえば、オイシックス・ラ・大地さんはいま世界中で問題になっている“フードロス”削減にもかなり力を入れていらっしゃいますが、現状と今後の展開について教えていただけますか?

 
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