最近、テレビを見ていると葬儀会社のCMが多くなったと思いませんか。「小さい」「安い」「簡素」を売り文句にしているのを見ると、以前なら「値切るなんてとんでもない」と、話題に出すことすらはばかられていた葬儀の費用について、オープンに語られるようになったのかなと感じます。
今は、コロナ禍での三密を避け、お通夜を行わない「一日葬」が増えているのだそうです。
今後、「コスパ重視」で縮小傾向になっていきそうなお葬式。そもそも、本当に必要なの? そんな問いを投げかける『それでもしますか、お葬式?』は、葬儀業界のリアルな実態をバッサリとドライに描きつつ、現代における葬儀の形について語りかけてきます。
「本当にお葬式って必要なのか?」
日々、疑問に感じている契約社員の向井朝子。彼女が働いているのは葬儀社「羅生苑」。某有名作家の代表作を想起させる社名を冠したその職場は、葬儀をビジネスと捉えて、情も涙もない守銭奴のような人間ばかりなのでした。
たとえば、なかなか捨てられなかった大切なお人形とお別れをする「人形供養祭」。
「羅生苑」では供養してもらえるだけでなく、なんとお食事つき!? しかも、無料。
「我々はこういう慈悲深い方々が大好きなんですよ」
と、法要料理に喜ぶ人たちをもてなしている……ように見えるのですが。
その実態は、無料の法要と食事を提供することで、会員カード(葬儀が30%オフになる)に入会させ、将来の葬儀の予約も取れる、立派な新規会員獲得イベントなのでした。
上司の水野さんがこんな一言。
食事までご馳走になったら さすがに席は立ちにくい
以前は「待ち」のビジネスだった葬儀業界も、高齢多死化となった現代社会では、こんなふうにあの手この手で「攻め」ていかないと、生き残れなくなったという。
続いては、白衣を着て病院関係者のフリをし、「ホトケ様」を自宅までお送りする作業。自宅に到着後、おもむろに葬儀の話をはじめ、ご遺族の方がためらうと、既に送迎で料金が発生している、と告げる上司。やり方が腹黒い……!
「人並みに」や「恥ずかしくない程度」という言葉が出たら
そこそこお金に余裕があると思っていいです
良心がうずき、頭を抱えている朝子に上司は
葬式なんて どさくさにまぎれて売り込む商売なんですから
と言います。
儲けることしか考えてない人ばかりの職場で、朝子は日々イライラしながら思う。
お葬式って必要ないのでは?
ある日、「羅生苑」に孤独死した女性の見積もり依頼の連絡が入り、朝子と上司の水野さんは「ホトケさん」のある霊安室に向かいます。すると、「ホトケさん」の妹だという若い女性が、警察と口論をしていました。
10年前に出て行ったきり音信不通だった姉が亡くなったから引き取れと言われて、困惑しているみたいなのです。火葬だけで42万、という葬儀費用を聞いて「払えるわけないじゃん!!」と叫びます。
すると、水野さんが微笑みながら一言。
引き取りを拒否することもできますよ
すると、女性の表情が一変します。
彼女は姉を弔うか、弔わないかの決断を迫られているのです。
確かに、葬儀に払う金額は高い。けれど、そのお金を惜しんで姉を無縁仏にしてしまってよいのだろうか。
ためらう女性の姿を見て、朝子は「賭けてみませんか?」と、葬儀を少しでも安くする方法を持ちかけます。
「安くする方法」を速攻でどんどん実行していく朝子。でも、サービス、ホスピタリティというには度を超している行動に、女性が恐怖感を抱いていきます。
朝子さん…… おかしいよ どうしてそんなに頑張るの
朝子はかつて、葬儀費用と生活費を天秤にかけ「弔わなかった側」を選んだ人でした。
遺された者が葬儀をしなくても「人は死ねる」ことを実感しているのです。
けれど、「引き取りを拒否することもできますよ」と言われた時の妹さんの様子を見てから、朝子は自分が「あの時しなかった弔い」にずっと心を囚われていたことに気づいたのです。
葬儀には、故人と遺された人たちの思いだけでなく、費用も問題になってくるという現実や、葬儀業界の裏側を知っても、彼女と同じように思うはずです。
お葬式という儀式はやっぱり必要なのかもしれない。故人のためにも、遺された私たちのためにも。それがどんな形であっても。
二話以降は、介護施設で亡くなった高齢女性の葬儀プランニングを朝子がすることになります。今度は費用ではなく、故人と遺された人達の思いが交錯し、ある問題が浮かび上がってきます。
葬儀では、故人と遺された者たちの想い、そして費用の三点が大事。
そんなメッセージを伝えてくる本作。
特に、かつてはタブー視されていた費用について、オープンに語られるようになりつつある今の時代だからこそ、生まれた漫画なのかなと思います。
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『それでもしますか、お葬式?』
岡井 ハルコ (著)、三奈 仁胡 (原著)
葬儀社「羅生苑」の新米社員・向井朝子。人形供養祭で会員数を増やそうとする上司や、戒名代が安いと言って乗り込んでくる僧侶など、情も涙もないビジネスとしての葬儀業界で働く彼女は「本当にお葬式は必要なのか?」と自問自答する日々。ある時、孤独死したキャバ嬢の姉の葬儀代が出せないという女性に彼女はある提案をする。2巻が8月18日に発売された話題作!
作者プロフィール
作画者・岡井ハルコ:
『江ノ島ワイキキ食堂』(少年画報社)や『世界の終わりとオートマチック』(集英社)などが代表作。現在はグランドジャンプ (集英社)にて『それでもしますか、お葬式?』を連載中。
Twitterアカウント:@okaiharuko
構成/大槻由実子
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