自分が「孤独死」する可能性について、考えたことはありますか? 日本では、男性の平均寿命が約81歳なのに対し、女性は約87歳。女性の場合、最後は結局「ひとり」になるともいえます。この「孤独死」と独身者の老後というシビアなテーマに、ギャグ漫画っぽい絵柄とノリで切り込んでいく『ひとりでしにたい』。その3巻が7月20日に発売されます。

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『ひとりでしにたい』(1) (モーニング KC)

本作の主人公は、山口鳴海35歳、独身。
伯母さんが、先日亡くなった。

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父親の姉である伯母さんは、大企業で働いていてオシャレで美人で「憧れの人」だった。でも、最期は自宅の風呂場で、孤独に亡くなったそうだ。一人暮らしだったから、数日間放置され、発見された時には湯船の中でドロドロの「スープ」になってしまっていた……。壮絶な状態だったらしい。

 

すると、父親が言った。

「ま……結婚もせず 子どもも産まないで ずっと一人で好き勝手やってたから
最期に罰が当たったってとこだな」

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そんな言い方ないじゃん! と怒る鳴海に、母はふっと尋ねる。
「光子伯母さんのこと そんな好きだった?」

そう言われて、定年を迎えた頃の伯母さんを思い出した鳴海。小さい頃は、美人でキラキラしていた彼女だったけれど、晩年には卑屈で「あとは死ぬだけ」などと愚痴るおばあちゃんになっていた。それが嫌で、家に来てもなるべく会わないようにしていたっけ。

今、伯母さんが遺していったのはダンボール一つだけ。中には、とんでもないものが入っていた。用途を知らずに、職場に持っていったら同僚にキモがられてしまった。女の赤裸々な欲望を象徴する、とあるグッズだったのだ……。

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死んだ後も、親族に「罰当たり」と言われ、赤の他人にもキモがられる伯母さん。
昔は憧れてたけど、こんな最期はいやだ!

そうだ、婚活しよう。
さっそく無料婚活アプリに登録。でも、数日経っても全く進展がない。

「学芸員」という職業がいけないのかな。趣味「アイドル」がよくないの?
職場でプロフィール設定を見直していると、出向職員の那須田くんが「婚活始めたって本当ですか?」と突然質問してきた。

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「結婚なんて全然興味ない」ってよく言ってたのに、どういう心境の変化があったのか、と立て続けに聞かれ、答えを濁していると衝撃の一言。

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「結婚すれば将来安泰って昭和の発想」
「30半ばの女とか『需要』ないですよ」
「来るとしたらもう50近い男か……」
その後も、婚活市場の現実を突きつけてくる彼。

煽られまくった鳴海が決めたのは、

「ひとりできれいにしぬこと」。

今やるべきことは婚活じゃない。終活だ。ここから鳴海は「ひとりできれいにしぬ」ためのプランニングを始める。伯母はなぜ「スープ」になったのか。結婚で老後対策ができないならどうしたらいいのか。生涯独身でもお金さえあれば安心なのか。孤独死の実態とは? そして、鳴海の両親は、生前の伯母さんをどう思っていたのか。まずは調べることから。


主人公は両親のところに行って、伯母さんの実像をどんどん知っていきます。伯母さんと母の関係は、働く独身女vs子持ち専業主婦の構図だったことや、大手企業で悠々安泰な暮らしをしていると思っていたけれど、深い闇を抱えていたことなど。

そして、伯母さんの「敗因」の仮説を自分なりに立てます。

ギャグ漫画のようなノリですが、「孤独死」と、そこに至るまでの女の人生をかなりシビアにえぐってくる『ひとりでしにたい』。悲惨な孤独死を避けるために試行錯誤する主人公は、一人で生きるための「エッセンス」を学びます。

・ひとりの人ほど「人」を大事にしないとだめなんだ
・「大丈夫」は孤独死のはじまり
・「どこに助けを求めるか」は元気な時に調べとかないとダメ

など。これらは主人公のような独身女性にかぎらず、老後を迎える前や健康で安定した生活をしているうちは意識しにくい、でも気づいておきたいポイントなのではないでしょうか。

そして、独身・既婚など問わず、どんなステータスの人間に対してもリスペクトと優しい目線が感じられるところも本作の魅力。それがわかるのが、伯母さんの闇を知った後、主人公がこう悟ったシーンです。

孤独と不安は 人間を「馬鹿」にしてしまうんだ

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ここで「伯母さん自身が馬鹿だったんだ」ではなく、置かれた状況がその人を馬鹿にさせる、ことに気づき、彼女の抱いていた不安に目を向ける。主人公のこのキャラ設定に、作者が持つ、人への優しい目線を感じます。

そして、主人公をやたら煽ってくる那須田くんにも注目。彼は彼で、また別の物語を持っているのです。まずは、第一話「ぼくらはみんな死んでいく」を読んでみてください!
 


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『ひとりでしにたい』
著者:カレー沢 薫 講談社

キャリアウーマンで憧れの存在だった伯母が、風呂場でまさかの孤独死。山口鳴海35歳、独身、学芸員の人生は、婚活から「ひとりできれいに死ぬ」ための終活へシフトする。よりよく死ぬことを考え抜いたら、よりよく生きることにつながっていた。第24回(2020年度)文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。

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作者プロフィール:カレー沢 薫

OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』でデビュー。第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選出された『アンモラル・カスタマイズZ』、第24回(2020年度)文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した『ひとりでしにたい』などが代表作。
Twitterアカウント @rosia29


構成/大槻由実子

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