「誰々ちゃんのお母さん」「誰々の奥さん」……社会の中で女性は属性で呼ばれることもまだまだ多いですが、今回の主人公は「誰かのカノジョ」です。

心理描写がリアルすぎる、と人気を集めている『明日、私は誰かのカノジョ』。コミックアプリ「サイコミ」で連載中の本作は、単行本の売り上げが紙・電子合わせて120万部を超えるほどの人気で、6月17日に7巻が発売されたばかりです。

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明日、私は誰かのカノジョ (1) (裏少年サンデーコミックス)

彼女代行のバイトをする女子大生、パパ活をするその同級生、整形依存症のアラフォー女性、ホストにハマってしまう女子など、「誰かのカノジョ」である女性達の物語がオムニバス形式で語られます。今回は、第1章、女子大生・雪のストーリーをご紹介します。

 

女子大生・雪は、彼女代行サービスのバイトを週一でしています。彼女代行サービスとは、彼女のフリをして客とデートをする仕事。仕事依頼のメールを見ながら入念にメイクをしています。

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©️Hinao Wono/Cygames

この日、新宿駅で待ち合わせをしたのは、「初めてこんな店利用した」という男性客。彼の要望は「妹系」だったので、雪は幼さを感じさせる、アイドルのような服装で登場しました。

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©️Hinao Wono/Cygames

最初は緊張して汗をかいていた客も、数時間、お茶を飲みながら会話をするうちに、すっかり彼女に心をつかまれ、別れる時には「……雪に会いたいから、……またお店に連絡して予約入れるわ」と言っています。

家に帰った雪は、客の詳細をメモに記載しながら「この人はまた来るだろうな」と予想します。「あなた達が何を言って欲しいか どう接して欲しいか 手に取るようにわかる」。自分の外見や仕草を完全に客の好みに寄せ、「男心をつかむプロ」に徹している雪。

好意を寄せられたり外見を褒められても、嬉しがることはみじんもなく、「それが仕事」とドライに考えているのは、見た目も「嘘で塗り固められた私」だから。

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ここまででははっきりと描かれていませんが、彼女の顔と肩のあたりには、何か隠さなければならないものがあるようです。

そんな「男心をつかむカノジョ」を完璧に演じられる雪が、次に受けた仕事はWデートで彼女のフリをしてほしい、という依頼。依頼者は、オドオドした20代前半のメガネ男子、辻壮太です。

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Wデートで映画館に行った後、壮太が映画の感想を語ると、雪が、素の感情をちらりと見せるシーンがあります。その感情とともに挟まれる回想からは、親や教師など、他人の顔色をうかがいながら生きるようになった彼女の生育環境がうっすらわかるのです。

この後、壮太は雪の日常に踏み込んでいき、彼女は自分の奥深くにある感情を、彼にさらけ出さずにいられなくなります。

彼女代行サービスの彼女と客、という関係を崩そうとしない雪と、彼女の「素の部分」を偶然知ったことで、彼女が気になってしまう壮太。
恋がはじまりそうでなかなかはじまらないのは、雪が他人を信用していないスタンスだから。彼女が信じているのは、お金。それは彼女の心にある、ぽっかり空いた穴を埋めてくれるものでした。
「……お金って安心する 私を裏切らないから」

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第2章以降の主人公も、雪のように、他人に裏切られたり、他人の視線に縛られて生きている「誰かのカノジョ」達ばかりです。パパ活をして奔放に暮らしていても寂しさを抱えているリナ、元の顔にコンプレックスがあって整形を繰り返しているアヤナ、「推し」のホストにつぎ込んでいるゆあ。

一見、自分とは全然違う世界のように見えるけれど、他人の目を意識しているところや、集団の中にいても孤独を感じている、誰にも素を見せられずにいる、そんな女の子達は、私達の中にもいるのではないでしょうか。

作中のセリフやモノローグなど彼女達の生々しい言葉のどれかにぐさっとささり、はっとする瞬間があるはずです。これは、私だったんだ、と。

私たちとこの女の子達の世界は、どこか根っこの方ではつながっているように思えるのです。
 


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『明日、私は誰かのカノジョ』
著者:をの ひなお
小学館

「一週間に一回、私は誰かの彼女になる」彼女代行サービスでバイトをする女子大生・雪を筆頭に、パパ活や整形依存症、ホスト通いなど、現代の女性たちの恋愛と心の痛みを描くオムニバス。

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作者プロフィール:
をの ひなお

2019年からCygamesのコミックアプリ「サイコミ」で『明日、私は誰かのカノジョ』を連載中。


構成/大槻由実子