メディアでよく見かける「ワンオペ育児」という言葉。これは、子育てや家事をほぼ一人でこなさなければいけない過酷な状況を意味します。夫が激務で育児や家事に関われず、実質的に妻が一人で担わなくてはならない場合や、共働きだけど、夫が積極的に子育てや家事に関わらないために、結果的に妻が一人で担わざるを得ない場合などがあります。心身ともに追い詰められてしまうワンオペ育児の苦労は、当事者でなければなかなか分からないものですが、モーニングで不定期連載中の『ワンオペJOKER』は、ワンオペ育児の苦労あるあるが巧みに盛り込まれたギャグ漫画でいて、アメコミ原作の世界観も崩していない、という稀有なバランス感覚の上に成り立った、すごい漫画なんです!

『ワンオペJOKER』(1) (モーニング KC) 

コウモリを模したコスチュームに身を包み、ゴッサムシティにはびこる悪と闘うバットマンは映画などで有名ですが、アメリカの大手コミック出版社のDC COMICSから誕生したアメコミ・ヒーローの一人です。バットマンにはジョーカーという宿敵がいます。ジョーカーは平凡でつまらない世界に、自らのジョーク(犯罪)を効かせることを信条としており、頭が切れる上にとにかく邪悪。緑色の髪、真っ白な皮膚、常に笑っているかのように裂けた口角が特徴で、工場の化学薬品に浸かってしまったことでこのような容貌に変わり果ててしまいました。

 

『ワンオペJOKER』は、雨のゴッサムシティを歩くジョーカーの姿から始まります。ジョーカーが雨の中、買いに行っていたのは赤ちゃんのおむつ。本人も「どこまでが現実(リアル)で、どこまでが嘘(ジョーク)なのか」とつぶやくように、なぜ自分が赤ちゃんを育てているのか、その事実を受け入れられずにいました。

 

ことの始まりはおとといのこと。ジョーカーはバットマンと死闘を繰り広げていました。邪悪なジョーカーに対抗できるのはバットマンだけ。しかし、正義を貫くバットマンには人を殺さないという信条があり、そのことを知っているジョーカーは「俺を殺してみろよ」と挑発します。ジョーカーとバットマンが工場の化学薬品のタンクの上で揉み合っている時に、体勢を崩したバットマンは、タンクを満たしていた謎の液体の中に落ちてしまいました。

慌てたのはジョーカー。バットマンのことを挑発していましたが、ジョーカーにとってバットマンは表裏一体のような存在。ジョーカーはバットマンの正義を否定することに執念を燃やし続けており、悪として振る舞いがいがあるのも、バットマンがいてこそ、というわけなのです。ジョーカーがタンクの中からバットマンのマントを引っ張り上げると、なぜかそこには赤ちゃんが……。

 

謎の液体のせいで赤ちゃんになってしまったらしいバットマンを前に、ジョーカーはとりあえず一回大きな声で笑います。そして、自分が責任を持って立派なバットマンになるまで育てることを決意します。だって、バットマンがいないと、自分の存在意義が大いに揺らいでしまうから。屈折しまくりで荒唐無稽に聞こえるかもしれないけど、ちゃんと筋は通ってる。

 

当然のことながら悪の権化であるジョーカーは子育てなんてしたことがありません。自分以外は誰ひとりとして信じないジョーカーは必然的にワンオペでの育児を強いられます。だから、せっかく買ったおむつのサイズを間違えたり、全然寝付かないバットちゃん(赤ちゃんになったバットマン)に悩まされたりすることがあります。

でも、バットちゃんを正義感の強いバットマンに育てるためには、育児に真剣に向き合うしかありません。ジョーカーは、赤ちゃんに危険な刃物は手の届かないところに置いたり、沐浴のときのベビーソープは無添加のものを使ったり、離乳食を自分で作ったりと、その邪悪な外見とは裏腹に、かなり丁寧に、真面目に育児をしています。

 

一方で、すでに子育てを終えた部下のジョニー・フロストから育児マウンティングをとられてキレそうになったり、認可保育園に入るために煩雑な手続きを強いられたりと、育児苦労あるあるが巧みにギャグにされ、これでもかとガンガンに攻めてきます。でも苦労ばかりではありません。バットちゃんの前歯が生えているのに気付いてじーんとしたり、ベビーカーを押して外出した時に、街の人に助けられたりすることもあります。

 

育児のリアルな大変さと、アメコミという全く接点がなさそうな2つの要素のアクロバティックな融合によってこの世に爆誕した本作。アメコミ好きには間違いなく刺さるはず! もしも、このアメコミ調タッチに敬遠している人がいたらものすごくもったいないのでぜひ試し読みを読むべし。邪悪の象徴であるはずのジョーカーが人間味にあふれていて、すごくいいやつに見えてきます。あと、バットちゃんがかわいい。それでいてDC COMICS「バットマン」の各キャラクターや関係性を崩すことなく、世界観もしっかり守っています。さすが、DC COMICS公認なだけのことはあります。あと、妊娠や出産、子育てのお役立ちサイト「たまひよWEB」でも同時連載しているので、子育て界隈もお墨付きということで! 
 

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『ワンオペJOKER』
宮川サトシ(原作)、後藤慶介(作画)、DC COMICS(キャラクター・監修)  
(株)フォルトゥーナ(協力) 講談社

悪のカリスマ、育児はじめました——。

正義の象徴・バットマンの永遠の敵役・ジョーカー。悪を証明するためには正義が必要……つまりジョーカーにとってバットマンは必要不可欠な存在……のはずが、思わぬ事故からバットマンが赤ちゃんに変貌してしまう!

正義の脆さを示し悪を証明するために、ジョーカーは赤ちゃんバットマンを正義のスーパーヒーローに育てられるのか!? DCコミックス公認の極悪育児コメディ!


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