で、いったいブラッドリー監督は彼女の何を描きたかったのでしょうか。闘う女性? 人種差別? アメリカの司法制度? どれも正解ですが、答えは曖昧です。ブラッドリー監督が敢えて狙って曖昧にしているのです。これこそ、この作品がアカデミー賞をはじめとする賞レースで評価されている理由にあります。
1986年生まれのデジタルネイティブ世代が追求する曖昧さの意味
ドキュメンタリー映画はそもそも資金が集まりにくく、企画から完成に至るまで苦労を伴います。完成後も各国の公共放送や中小規模の劇場で展開するのも一苦労。自主上映で公開されるケースも多いです。この状況に風穴を開けているのがNetflixやAmazonなどの存在です。作品公開の選択肢の幅を広げているだけでなく、作品性の幅も広げているのです。Amazonで配信中のブラッドリー監督の『タイム』もそのひとつです。
クリエイティブでアート性が高く、人種差別や司法制度の問題に気づかされるものの、それを訴えかけ、問題提起する類のこれまでのドキュメンタリーとはちょっと異なります。観る人に創造を託す次世代のドキュメンタリースタイルを追求していると言えるもの。曖昧さを逆手に取っているのです。
1986年にニューヨークで生まれたブラッドリー監督はアーティストの親の元で育ち、高校生の時から映像作品を作っていたそうです。根っからのクリエイター気質ということも作品に反映されていそうです。
ギャレット・ブラッドリー監督
そして、何より情報化社会の中で育ったデジタルネイティブ世代の監督ゆえに、真実は決して1つではないということが刷り込まれているのかもしれません。だから、ただただ作品から何かを感じ取ることができればそれでいい。心に訴えかけてくるような作品を大切にしているように思えます。
前回記事「大坂なおみ、オカシオ=コルテス...女性監督によるNetflixドキュメンタリーが熱い」はこちら>>
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