学生時代、欲しくてたまらなかったけど、金銭面などいろんな事情で手に入れられなかった憧れのアイテム。今、手に入るとしたらまだ欲しいですか? それとも、懐かしいと思えど、なんであの頃はこんなものが欲しかったのかな? と客観的に見てしまうでしょうか。
この『青春お父さん』の場合、主人公が欲しかったのはアイテムじゃなく、「アイドルとの青春」でした。

『青春お父さん 1』(ヤングジャンプコミックス)

若いうちに妻に先立たれ、男手一つで一人娘を育ててきた。娘が大学生になり、家を出ていった後、自分の人生をふと考えはじめたアラフィフお父さん・夏目秋人。

 

ずいぶん前に妻を亡くしてから、家と娘のために必死に生きてきた。これからは物を増やさないようにしよう、と部屋の整理をしているとあるものを見つけます。

 

学生の時、はじめて自分で買ったCD。
ゆりあという清純派美少女アイドルに夢中だった高校時代を思い返す秋人。

 

あの頃は、リアルの女の子と付き合ったことがなかったけど、ゆりあがいれば幸せだった。

大学生になり、社会人になるにつれて、リアルな生活が忙しくなり、それなりに充実してきて、だんだん偶像(アイドル)のことは考えなくなっていたけれど、こうしてCDを聴くと当時のときめきが蘇る!

でも、鏡に映る自分は老けてしまった。

やることはそれなりにやったし もういつ死んでもいいかもな

ぼちぼち終活でもはじめるか、と家族写真をまとめはじめます。

ピュアだった頃に戻りてえなあ⋯⋯

と言った後、「それか早くそっち行って⋯⋯」と、外を眺めながら亡くなった妻に呼びかける秋人でした。

 

ある日、競馬にいった秋人は女性と偶然ぶつかります。その顔を見ると、

ゆ、ゆりあ!!!

 

ゆりあのことを思い出しすぎて、似た女性がゆりあに見えてきたのか? いや、違う。面影はそのままだが、だいぶ大人になったゆりあだ!

現実のゆりあが、目の前に現れたのです。

話したい 話したい 話したい

でも、もう一般人になったゆりあはプライベートで競馬を楽しんでいるのだろう。迷惑はかけたくない。

話したいけど迷惑はかけたくない。悶々と葛藤する秋人は、娘が家を出て行く前の言葉を思い出します。

 

高校時代、ゆりあに小遣いをつぎ込んだ記憶。
すこしくらい見返りを求めたっていいだろ?と邪心がムクムクと。
ギュッとこぶしを握りしめて、思い切って声をかけてみます。

 

ここから、秋人の第二の青春がはじまりました。

これは、人生のご褒美?

 

2人が出逢ったのがなぜ競馬場なのかというと、ゆりあは昔JRAのCMキャラをしていたんです。ゆりあを思い出したからこそ訪れた競馬場で、彼女と出逢う。運命を感じてしまいますよね。

 

ゆりあを競馬場でエスコート、2人で並ぶ姿はまるでデート。学生時代には叶えられなかったけど、いつも妄想していた夢が叶った瞬間。

さらに秋人は思い切って来月のG1レースへのお誘いを⋯⋯!

第二の青春が訪れたお父さんの胸のときめきに、読んでいるこちらもキュンキュンします。次の約束の日までにアイドル時代の動画を見ていたり、夢に出てくるのが高校時代の妄想だったり、連絡先をまだ聞けていないとはいえ、青春をリフレインしている様が、アラフィフという年齢を感じながらもピュア!

そして、昔の自分の「思い残し」を叶えていくストーリーでもあります。

秋人は高校時代、アイドル・ゆりあのことが大好きすぎて「夢の中でも会いたかった」ほどでした。ゆりあと偶然競馬場で会った時、秋人は声をかけるかどうか逡巡しながら、高校時代の「思い残し」が自分の中にあったことに気づいたのです。

学生時代に欲しかったけど、当時は手に入れられなかったものの一つ、制服姿のゆりあの等身大パネルをネットオークションで入手する秋人のモノローグ。

俺は もう好きなものを遠慮なく買えるのだ

 

大人になってからは金銭的には買える状況だったのでしょうが、妻や娘にはとてもじゃないけど見せられなかった。特に、娘には気持ち悪がられるにちがいないから買えなかった。でも、一人になった今なら買える!

モノローグはこう続きます。

実親も既に見送った
俺を たやすく叱るものはいないのだ

親に叱られるかどうかが出てくるのも、心が学生時代にタイムスリップしているからではないでしょうか。

元来のオタク気質を封じて、マジメに生きてきた秋人のこれまでの人生を感じ、「我慢していたんだね……」と、切なくなります。

ちょっと気になるのは、ゆりあが秋人にやたら好意的なところ。

偶然会った時にもこの表情&セリフ。

 

運命も感じるけれど、自分のファンだったからといって元アイドルがフツーの枯れたアラフィフ男性にこんなにすぐ接近してくるもの? なにか裏があるんじゃないの? とちょっぴり邪推してしまいます。
秋人はゆりあの言動ひとつひとつにピュアにときめいていますが、どうなんでしょう⋯⋯。

そんな『青春お父さん』は、2巻が12月17日に発売されたばかり。表紙を見ると、1巻と同じく、秋人の心の声が表紙全体にちりばめられています。

『青春お父さん 2』(ヤングジャンプコミックス)

秋人はこのまま学生時代に思い残した夢を叶え、第二の青春を謳歌できるのでしょうか。また、ゆりあが彼に接近する真意はなんなのか。

音楽やアイドルに限らず、学生の頃に夢中になったもの、欲しかったものってなんだったっけ……と自分の10代を思い出してみたくなる作品です。

 


【漫画】『青春お父さん』第1話を試し読み!
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『青春お父さん』
藤末 さくら (著)

妻に先立たれ、男手一つで娘を育てたアラフィフお父さん・夏目秋人は娘の自立を機に人生を振り返り終活を考えはじめていた。そんな秋人の前に、若い頃夢中で追いかけていたアイドル・ゆりあが現れて、第二の青春がはじまる! 純情お父さんと元アイドルのアラフィフピュアラブストーリー!


作者プロフィール

藤末 さくら
高校1年の時、少女漫画誌『ぶ〜け』でデビュー。その後、受験等のブランクを経て20歳で『別冊マーガレット』で再デビューし、『クッキー』『キューティ・コミック』などで活躍。『あの子と一緒』『春夏秋冬Days』などが代表作。現在は、「グランドジャンプ増刊」(集英社)にて『青春お父さん』を連載中。
Twitterアカウント:@fujisuesakura



構成/大槻由実子