病気やケガでもう二度と社会に戻れなくなってしまった人たちの居場所、それが終末期病棟(ターミナル)。

清原果耶さん主演でNHKでドラマ化された『透明なゆりかご』の原作者・沖田×華さん。
元看護師の経歴を持つ沖田さんが、今度は終末期病棟(ターミナル)を題材に描いた『お別れホスピタル』。その7巻が11月30日に発売されます。

終末期病棟は「ゴミ捨て場」じゃない。人生の最期に寄り添い続ける看護師たち『お別れホスピタル』_img0

舞台は、人生の最期を迎える人たちが集まる場所、終末期病棟(ターミナル)です。
病気やケガ、回復が見込めなくなった患者さんたちと、看護師たちの日々が語られます。

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この病棟で働いて2年目となる看護師が、主人公の辺見さん。
自分の働く場所が、この病院内では"ゴミ捨て場”と呼ばれているのを知っています。

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病棟にある入院ベッド150台はいつも満床で、7割が認知症患者。
1話に登場する太田さん(81歳女性)も認知症で、お気に入りのお菓子を1日中ねだっています。

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この太田さんと、寝たきりでほとんどしゃべらない野中さん(90歳女性)と、世話好きでおしゃべり好きな山崎さん(75歳女性)、キャラの全然違う3人が同室で過ごしています。

 

ある日、お菓子が欲しくて駄々をこねる太田さんに入れ歯を投げつけられ、へこんでいる新人の看護師。
患者さんとコミュニケーションを取ろうとしてもうまくいかない、と悩む彼女が辺見さんに「どうやって患者さんと接していますか?」と訊ねます。辺見さんは、

私の場合、お気に入りの患者さんを見つけて、話しかけることかな。
一人くらい、見つからない⋯⋯?

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と、アドバイスをするも、その新人は

お気に入りの方を見つけても⋯⋯すぐ亡くなるじゃないですか。

と言います。「そうだね⋯⋯」としか返せない辺見さん。

新人は翌月には辞表を出してしまいました。
このモノローグが終末期病棟(ターミナル)の現実を表しています。

この病院は、20代で入ってくるナースには向いていない。
回復して退院できる一般病棟とは異なり、ここでは看護師としてのスキルが上がることはないからだ。

それでも、医療行為を続ける看護師たち。そして、生き続けようとする患者たちの日常が、きれいごとなしにむき出しのまま語られていきます。

たとえば、"軍曹"と呼ばれている小川さん(90歳男性)。
70代後半の時に脳出血で半身不随となり、認知症も出ている。

ワシのことは軍曹と呼べ!と、軍人時代に戻った(気分の)小川さんは激しく暴れ、看護師に危険が及ぶことも。そのような時には、やむを得ない対応として、手足をベッドに縛りつける「抑制(身体拘束)」をするのでした。

本当は抑制なんてしたくないけど⋯⋯
人手 足りないこの職場で暴れられたら業務が止まるし、
スタッフがケガしたらもっと大変だからねー。

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そんな小川さんの家族は「すごい」と看護師の間で評判でした。派手で煌びやかなファッションでお見舞いにぞろぞろと連れ立ってやって来る小川さんの娘さんたちを初めて見た辺見さんは驚き、やるせない表情になります。

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「父にはもっともっと長生きしてもらわなくちゃねー」と言った娘さんたちは、小川さんの軍人恩給のおかげで、贅沢三昧な生活を送っているのでした。「長生きしてほしい」と願うのはお金のため。

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「おじいちゃんおばあちゃん長生きしてね」が口グセの家族ほど⋯⋯
”な〜んにもしない‼︎”

家族にお金目当てで延命させられている”軍曹”小川さんは、部下の形見の帽子を大事に持っていました。そして、肉の匂いが大嫌いでした。その理由は、後からわかるのです。

次に、辺見さんが”お気に入り”の患者さん、マサちゃんこと福山さん(74歳女性)。穏やかで看護師のグチを聞いてくれる「いい人」。結婚をしていないし、子どももいなく身よりのない彼女に、独身の辺見さんは親近感を持っています。

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マサちゃんは、お父さんが戦争で亡くなり、お母さんと2人で暮らしていましたが、そのお母さんも30歳の若さで亡くなってしまいました。その後、住み込みで安いお給料をもらいつつ休みなく働いていましたが、55歳の時、無一文で放り出されてしまったのでした。

友達を作る暇さえなかった人生。体調が急変し、腹水が溜まって苦しみながらも隣の人を思いやるマサちゃんの処置をしながら、辺見さんは思う。

人生は、あまりにも、理不尽すぎる。

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彼女の最期に訪れた"救い"とは何だったのでしょうか。

本作は冒頭で、終末期病棟のことを「ゴミ捨て場」と呼ばれている、というショッキングな表現が出てきます。
ですが、そこで嫌悪感を持ったり、読むことを止めないでほしいのです。そんなふうに言われている終末期病棟(ターミナル)の真実を伝えようとしている作品だから。

看護師たちは精いっぱい患者に寄り添い、理解する存在であろうとする。人間だから患者に怒りを覚えたり、嫌いだと感じても、医療従事者として寄り添うことはやめない。

そして、患者さんたちは、家族に厄介者扱いをされたり、感情を暴れることでしか表現できなかったり。孤独に耐えてきても理不尽な苦しみにさらに耐えなければならなかったり。
でも、居場所があり、誰かが寄り添ってくれることで、ほんの少しでも救われるのです。

「ゴミ捨て場」という表現には、人生の最期を待つ人々を「もうなんの役にも立たない存在」だと見なしているニュアンスがあります。でも、役に立つことかどうか、だけが人間なんだろうか? と、本作で「生きること」をむき出しに見せている患者たちの姿に感情を揺さぶられながら思うのです。

 


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『お別れホスピタル』
沖田 ×華 (著)

産科の次は終末期病棟。ドラマ化もされた『透明なゆりかご』の沖田×華が終末期病棟(ターミナル)での、看護師と患者たちの日々を描く。死が一番そばにある病院で働く2年目の看護師・辺見。彼女が目にするのは、さまざまな患者の“死と人生”をめぐる赤裸々で剥き出しの悲喜劇ドラマでした。講談社漫画賞少女部門受賞。


作者プロフィール

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沖田 ×華
代表作は、『透明なゆりかご~産婦人科医院 看護師見習い日記』(講談社)、『蜃気楼家族』(幻冬舎)、『不浄を拭うひと』や『毎日やらかしてます。』シリーズ(ぶんか社)などの作品がある。『透明なゆりかご』は、2018年に第42回講談社漫画賞少女部門受賞。NHKでドラマ化され、 第73回文化庁芸術祭ドラマ部門の大賞を受賞。現在、『お別れホスピタル』を「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載中。



構成/大槻由実子

 

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