坂本龍一さん、矢野顕子さんを両親に持つシンガーソングライターの坂本美雨さん。「東京2020パラリンピック」の開会式では、“パラ楽団”のボーカルとして透明感のある伸びやかな歌声を披露されたことも話題になりましたよね。

プライベートでは1児の母&大の愛猫家としても知られ、SNSで発信される“なまこちゃん”(娘さんのニックネーム)と、愛猫“サバ美ちゃん”とのやり取りに癒される方も多いのでは? そんな坂本美雨さんに、今年10月にリリースされたニューアルバム『birds fly』に込めた想いや、仕事とプライベートの両立について伺いました。

 


「子育てを始めてから、物理的な日常の時間の使い方はすごく変わったのですが、仕事とプライベートをはっきり分けているというより、どちらも地続きになっています。長女が産まれてから2歳前までは、仕事場に子連れ出勤していて。現場で授乳したり、スタッフみんなで育ててもらっていた感じです。今は平日は保育園に預けて仕事をして、夕方4時5時に私が迎えに行く、というルーティーンで、地方でコンサートがあるときは連れて行ったり、夫に任せたり。色々な方の手を借りて、プライベートと仕事、双方が影響しあってうまくバランスが取れています」

子どもの頃に垣間見た、カッコいい“大人の世界”を娘にも

「私も小さい頃は両親の仕事場に連れて行ってもらって、色々な人に育ててもらった感覚があります。緊張感のある現場は、ときにピリピリしていていづらいなと感じるときもあったけれど、それが当たり前だったし、行けないと寂しいなと思っていたくらい。自分に子供ができたら同じようにしたいなと思っていました。
ステージに出て脚光を浴びる人だけでなく、裏方の照明さんや音響さん、演出家、スタイリスト、ヘアメイクさんなど、色んな人が働いている現場の空気が好きで。みんなでステージを作っているのがかっこよく見えたし、プロの仕事を目の当たりにできたのも大きかったですね。それを娘にも見てほしくて、意識的に連れて行っているところもあります」

コロナ禍に入った昨年、今年と2枚のアルバムをリリースされましたが、色々な制限下にあったからこそ生まれた想いとは?

「“おお雨”(おおはた雄一氏とのユニット)名義でリリースしたアルバム『よろこびあうことは』は、緊急事態宣言に入ってから出来た歌。アルバムの核となる曲にある“よろこびあうことはまちがいじゃない”というフレーズがある日ふと浮かんで、そこから曲を作っていきました。
どんな社会になっても、人と人が触れ合いたいという気持ち、嬉しいことや喜びをシェアしたい気持ちは変わらないし、どんな環境になってもそれが出来る方法を探しあうものなんだなと思って。コロナ禍で浮き彫りになった人間の本質の1つだと感じます」

 
 


 

「1人で宅録したり、バンドでもそれぞれ全く会わずに作曲したり、リモートで海外の方とデータをやり取りして作ったり……コロナ禍で音楽作りにも色々な試みがありましたが、デジタルが発展した一方で、より人間らしい、生々しいつながりを求めるようになった気がします。デジタルの最新技術を使ってどう温かいものを追求するか、という方向に世界中が動いているのは面白いなと思っています」


建物の響きや息遣い。すべての音と空気をまるごと封じ込めたレコーディング

昨年秋には、約5年ぶりとなるソロアルバム『birds fly』をリリース。自由学園明日館の講堂での生演奏で、録音と撮影を同時に行うという通常のレコーディングとは異なる方法で作られたそう。

「ソロアルバムでは、一番シンプルで原始的な室内楽スタイルという方法を取りました。自由学園明日館の講堂をお借りして、1日で全6曲をレコーディング。本来レコーディング用の場所ではないので、演奏者にも音響さんにとっても過酷な環境。録音しはじめたら全ての音が入ってしまうので、咳払いも、お腹が鳴る音もガマン(笑)。全員が集中力を途切れさせることなく、いろんなジャンルのクリエイターが各々の経験と感覚を研ぎ澄ませ、それぞれにプロの仕事をして調和していく。生身の人間が一緒の空間にいるときにしか出来ない、息遣いや空気感をまるごと音に封じ込めました。

写真/前康輔

緻密に計算して作るのも素晴らしいけれど、計算外のこともたくさん起きるなかで生まれる、“完璧じゃないもの”を作品にしたかったんです。完璧ではない、ゆらぎやかすれの中に人間らしさや人を揺り動かすものがあると思っていて。私も自分をさらけ出したし、生身の人間にしか表現できない美しいものであり、た、とてもいとおしい作品になりました。エンジニアさんはすごく大変だったと思いますが(笑)」

 

 

「ミモレはともさかりえちゃんや高山都ちゃんなど、友人が出ていて良いなあと思って見ていました。ジェーン・スーさんと大草直子さんの対談も面白かったし、レシピを参考にすることも」と、実はミモレ読者だったことも判明!


次回は、ライフワークとしている児童虐待を減らすための活動や、歌手デビュー25周年を迎える来年に向けての想いを伺います。
 

 
 

坂本美雨
1980年5月1日生まれ。父・坂本龍一、母・矢野顕子。9歳でNY へ移住。
1997年、16歳で「Ryuichi Sakamoto feat. Sister M」名義で歌手デビュー。以降、本名で本格的に歌手活動をスタート。音楽活動に加え、執筆活動、ナレーション、演劇など表現の幅を広げ、ラジオではTOKYO FM 他全国ネットの「ディアフレンズ」のパーソナリティを2011年より担当。村上春樹さんのラジオ番組「村上RADIO」でもDJ を務める。
ユニット「おお雨(おおはた雄一+ 坂本美雨)」としても活動。2020年、森山開次演出舞台『星の王子さま- サン= テグジュペリからの手紙』に出演。2021年、ニューアルバム『birds fly』をリリース。
動物愛護活動をライフワークとし、著書「ネコの吸い方」や、愛猫“サバ美” が話題となるなど、“ネコの人” としても知られる。児童虐待を減らすための「こどものいのちはこどものもの」の発起人の一人でもある。2015年に長女を出産。猫と娘との暮らしも日々綴っている。
公式サイト:https://www.miusakamoto.com/ 
公式インスタグラム:miu_sakamoto


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撮影/目黒智子
ヘア&メイク/高城裕子
取材・文/出原杏子