「個」は自分の力で確立するもの

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この自由民主主義の時代に、他人様が何を着ようが、選ぼうが、自分とは関係ないじゃありませんか。趣味が悪かろうが、よかろうが、それはその人の自由。これ、と限定できる美しさなんてない。

そもそもみなさん方の中に、自分の意思というものがない人もまた多すぎるんです。グレーが流行れば、なんの理念もなく判で押したようにグレーを着て、その結果、街が雑巾だらけになってしまう。スリ切れたホウキの怨霊のような髪型が流行れば、みんながみんな何の実験に失敗したのですか? と聞きたくなるようなひどいカッティングになる。なぜ?

もういい加減、右を見て左を見、まわりに従うのはやめなきゃ。“個”というものは自分の力で確立するものなんですよ。また、その“個”は“孤”でもあります。“群れ”ではありません。

あなた方がそうやって周りに流されていると世の中はたいへんなことになってきてしまうのです。
 

※2000年4月に刊行された『天声美語』は、『VOCE』(講談社)1998年5月号〜2000年5月号に連載された「天声美語」をまとめたものです。本内容は『天声美語』を元にした新装版より抜粋しています。
 

 

著者プロフィール
美輪明宏(みわ・あきひろ)さん

長崎に生まれ、小学校の頃から声楽を習い16歳でプロの歌手としてデビューし、1957年「メケメケ」、1966年「ヨイトマケの唄」が大ヒット。ファッション革命と美貌で衝撃を与える。俳優としては、寺山修司の「演劇実験室◎天井棧敷」の「青森県のせむし男」「毛皮のマリー」、三島由紀夫に熱望された「黒蜥蜴」をはじめ、ジャン・コクトー作「双頭の鷲」、デュマ・フィス原作「椿姫」、エディット・ピアフの生涯を描いた「愛の讃歌」など数々の当たり役を持つ。作家としても、衝撃の自伝「紫の履歴書」(水書房)をはじめ、「人生ノート」(パルコ出版)など数多くのベストセラーがあり、テレビや映画も、宮崎駿監督によるアニメーション映画「もののけ姫」「ハウルの動く城」への声優としての参加、「ありえへん∞世界」(テレビ東京系)にもレギュラー出演中など枚挙にいとまがない。2018年には東京都より多方面での功績をたたえられ、平成三十年度「名誉都民」の称号を贈られた。

「控えめなほうが好感度が高い」なんてナンセンス。美輪明宏さんが語る“着飾るお洒落”のすすめ_img1

『新装版 天声美語』
著者:美輪明宏 講談社 1870円(税込)

2000年に刊行された名著『天声美語』が、20年の時を経て新装版として登場。本当の美しさとは、そして人生とは何かを、優しくも力強い言葉で綴ります。特別付録として、美輪明宏さんの美の源となった俳優、映画、音楽、本などのリストを掲載するほか、新たに「令和の人生相談」を収録。生きづらさを増した現代の、「読む常備薬」になってくれる一冊です。



構成/金澤英恵


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